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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

お前がママになるんだよ!

ここは人とロボットが仲良く暮らす理想郷、未来都市ネオトピア。
そして私はザコソルジャーを愛してやまないネオトピア市民。

「はあ……いつの間にかみんなとはぐれちゃったザコ。ダークアクシズに帰りたいザコ~~」

見よ。
月に照らされた海浜公園、青白い光に丸っこいシルエットを浮かび上がらせる緑色の2頭身ロボットを見よ。
ピンク色のモノアイをふせ、悩まし気なため息をついている。
ちっちゃな肩を落としながら短い歩幅で足を動かすその姿に辛抱たまらんものを感じたので私はザコソルジャーを担ぎ上げて自分の家まで持ち帰った。

「え、なに!?なんザコ!?ここはどこザコかーーっ!?」
「ねえザコソルジャーきみにひとつお願いがあるんだもちろん聞いてくれるよね!?」
「いきなり何を言い出すザコ!?」
「私のママになってほしい」

「………………ザコ?」

「私の、ママに、なってほしい」

四角いお口を平行四辺形に引きつらせ、短い首をコテンと傾げる。
どこかへ助けを求めるように、右へ左へ丸いモノアイを動かす。
しかしこの部屋は完全防音設計だ。例え声を張り上げたところで誰も来ない。

「えっと……いやザコ」
「は?なんで」
「だ、だってザコはその、お前なんか知らないザコよ?」
「認知しろ」
「いやいやいや待つザコ!一回よく考えるザコ!ママっていうのは製作者のことで、でもでもザコは誰も作った覚えがないんですよ!」
「なるほど。それなら仕方ないね」
「えっ」

私はあっさりと背を向けて、冷蔵庫から1リットル入りの牛乳を取り出した。
ザコソルジャーは混乱の渦に呑み込まれている。たっぷり3秒間固まった後、おずおずと回れ右をした。

「じゃ、じゃあザコはこれで……お邪魔しましたザコ~~」

びしゃッ。
そしてザコの後頭部に牛乳をひっかけた。

「──と言うとでも思ったかぁあぁぁあああぁぁぁあ!!!」
「おわぁっ!?冷たいザコぉぉおお!!」
「お前は本質的にママなんだよぉぉぉおおぉぉぉお!!!」
「こいつ頭おかしいザコぉおおぉおおぉぉ!!」
「わだじはおがじぐないぃぃぃ!!まぢがっでるのはぜがいのぼうだぁあぁあぁぁぁぁあああ!!!」

牛乳パックをひっくり返し、残りをすべてザコソルジャーにぶっかける。
滑らかなボディをしとどに濡らす、白、白、白。
どんな極彩色よりも鮮やかな緑が純白の液体に穢されていく。

「来ないでぇぇええぇぇえ!!」

ちっちゃくて短い可憐なお手々を精一杯振り回して拒絶する。
白く濡れそぼったモノアイに満ちるのは一体どんな感情だろうか。知りたい。君をもっと理解したい。
気付けば私はザコソルジャーを抱きすくめ、装甲に口をつけて流れる牛乳をすすっていた。
舌先で踊る苦みとえぐみ、ざらついた感触と僅かに香る火薬の匂い。
美味しい。
どんな天上の甘露よりもなお甘い蜜の味がした。

「んはあぁあぁあ!!おいじいぃぃぃ!!ママの特製ミルクおいじいよぉぉぉぉお!!」
「ぎもぢわるいザコぉぉぉぉ!!だすげでザク様ぁああああぁあ!!」
「ザクって誰だよぉぉぉ!!ねたまじいぃぃ!!ごろずぅぅぅ!!そいづを殺してやるぅぅぅうう!!ママはわだじのものだあああああ!!!」

装甲に刻まれた溝の一本一本まで丹念に舌でねぶり尽くす。
さらにザコソルジャーの抵抗が激しくなった。腕の骨からみしみしと不吉な音が聞こえる。
でも負けない。だって私はママの子供だから。分かるよ、これは愛の試練なんだね。

「産んでぇぇええ!!私をモビルシチズンに産み直じでぇぇぇ!!ザコソルジャーになるぅぅっ私もザコソルジャーになるのぉぉぉ!!!愛じ愛ざれ君と私でウロボロスの輪っかっかぁぁぁあひぃひひっひひ!!ききゃぎゃきゃきゃぎゃきゃぁあぁぁぁあぁあぁあぁ!!!!」
「イヤぁあああぁあぁぁぁあ!!!!!」

ザコソルジャーが一段と大きな悲鳴をあげた。
恐怖、憎悪、困惑、絶望……負の感情をありったけ掻き集めて発した音色は、耳に心地よく染み渡った。
ああザコソルジャー、君はなんて哀れなロボットなんだろう。最高に可哀想で、可哀想なのが可愛い。
君を満たしているのはこの私。
君の中に私がいて、私の中に君がいる。
視界でちかちかと星が瞬く。
世界とは、宇宙とは。
ときが見えた。

興奮が最高潮に達した私はザコソルジャーを担ぎ上げて家の周りを3周走ってから海浜公園にザコを投げ捨てた。
家に帰った後は泣きながら四つん這いになって床の牛乳を全て舐めとりそのまま気絶するように眠りに落ちた。

月が綺麗ですね。(エアプ夏目漱石)

2019年 5月18日