1up piercing Many Wide short Blink Big ball Ctrl Loading... BB2021 Click to start Ver 0.0.0.0 Please click to go to the next page. Game over Please click to try again Failed no item Stage 1/1 0% / 0% Stock 0
設定
1倍
※iOS非対応
ON
ON
ON
1倍
1倍

カーソルもしくはタッチしている位置をボールが追いかけます。

ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

ゆずれない想い

シタデルに『煉獄』という名のバーがある。
誰が示し合わせた訳でもないが、リーパーとの戦争から目をそらしたい人々が集まる場所だ。
今日も今日とて、物騒なご時世だからこその、狂気じみた賑わいを見せていた。

そんな『煉獄』で、バーカウンターに肘をつき、一人でくだを巻いている女がいた。
身に着けているのは前時代的な野暮ったいコート。
ダンスを楽しみに来たというよりは、「さっきまで部屋で呑んでたけど急に人恋しくなったんで騒がしい所に来てみた」といった風体である。
グラスをあおる度に、手首から銃創らしき火傷が覗く。

「なーにがサンクチュアリだ……みんなして美味い話にたかりまくってぞろぞろぞろぞろ……楽園なんてどこにもありゃしない、あるのは戦場だけだって20世紀の漫画に書いてたんですよ……ん?21世紀だったかな?」

などと、いかにもめんどくさそうな独り言を呟いている。
実を言うとこの女性、研究職であるにも関わらず、あっちこっちの戦地&死地に巻き込まれては何故か毎回生き残るという、運が良いのか悪いのか判別に困る生き方をしていた。
20代にして異様な雰囲気を纏っているのはそのせいでもある。

そんな物騒な彼女の隣に、人間の女性軍人が腰かけた。
連れらしき異星人もそれに倣う。
この場に来ること自体が乗り気でない様子の異星人は、不承不承といった感じでバー全体を見渡した。

「少佐、この原始種族共が飲んでいるのは何だ」
「お酒よ。プロセアンに飲酒の習慣はなかったの?」
「我々の時代にアルコールを摂取する習慣は無かった。こいつらの有様は酒が原因か」
「あまり言わないであげて。彼らは少しでも今を―――」

うつらうつら。
耳障りの良い2人の会話を聞くうちに、コートの女は少々の睡魔に襲われていた。
片方の声はどこかで聞いた気もするが、気にする余裕も既に無い。

「連合のやつら…救難信号送ってたのにひと月も無視しやがって…死ぬかと思いました…」

しかし独り言は忘れない。
安いカクテルをちびちび舐めて、誰に言うでもなく愚痴をこぼす。

「もうひもじい思いはごめんですよ。大体なんで非戦闘員の私が毎回…」

負の感情を巻き散らす女につられた訳でもなかろうが、人間と異星人の2人組は、そこそこ深刻そうに話し合っている。

「現在の状況にはまだ納得出来ない。原始種族がこのシタデルを席巻しているなど…」
「以前もそんなことを言ってたわね」
「アサリ、人間、トゥーリアン……そう、サラリアンもだ。我々の時代ではサラリアンの価値など、あの肝くらいにしか無かったな。食料としては優秀だった」

ぴくり。
何気ない異星人の一言に、コート女は静かに目を見開いた。
意志の力で、重い眠気を銀河の彼方まで蹴り飛ばす。

「あれは生きたまま食うのが一番だ。恐怖がいいスパイスになる」

その台詞が琴線に触れた。
女の頭に、何かがブチ切れる音が響く。

初対面だろうと知らん。怒る。
そんな決意を胸に抱き、勢いよく立ち上がる。
その拍子に腰かけていた椅子がぶっ倒れ、ガタンという音とほぼ同時に、決然と異星人を指さした。

「そこのあなた、いい加減にしてくださいっ!
 サラリアンの肝臓を生きたまま食べるだなんて、冗談にしても趣味が悪すぎます!」

若干ろれつの回ってない口調で、勢いのままに糾弾する。
今の彼女を動かしているのは、酔った勢いと魂の慟哭。

「ちゃんと殺さないと肝臓にストレスがかかって味が落ちるでしょうが!!」

しぃ………ん。

騒がしいバーの中、女と異星人の周囲にだけ、重苦しい沈黙が横たわった。
彼女の啖呵を聞いた誰もが思考を一時停止する。
中心にいる2人だけが、周りの反応をきっぱり無視して睨み合いを始めていた。

「お前は誰だ、人間?これだから知性のない原始種族は…。あのクセを理解出来ないとは」
「そっちこそ、ざけんじゃねーですよ。踊り食いが美味しいのは海洋生物くらいのもんです。タコとか」

親の仇に会ったかのような険悪さ。
シェパード少佐さえ頭上に「!?」を浮かべる雰囲気の中、舌戦の火蓋が今、切って落とされた。
繰り返すが2人は初対面である。この対決を可能としたのは、女に働く酒の魔力、そしてジャヴィックの売られた喧嘩を買う主義だ。
肝から伝わる恐怖がどうの、下ごしらえの重要さがどうのと、口論は具体的な内容にまで及ぶ。
この場にサラリアンがいないことだけが救いだった。
そのうちに論点はズレにズレ、他の知的生命体の調理法にまで飛び火した。

「ハナーは卵嚢がツルツルしたのどごしで美味しいのに!食料がないからってハナーに頼みこんだ時はドン引きされましたけど!あれって私が悪いんですかねぇ!?」
「馬鹿を言うな、足を引きちぎってそのまま食うのが一番だ。あれは恐怖がないと味気ないが、軟骨の食感は悪くない」
「活け造りが美味しいのは否定しないけど!!ちょっと待ってください、その調子だとまさかトゥーリアンとか食べてませんよね!?」
「食ったがどうした、あれは砂肝が珍味だったな。消化効率が悪いのは腹立たしいが」
「そんなもん食ったら次の日お腹壊しますよ!?そんで余計に脱水症状起こす流れだ!最後の手段ですらない禁じ手です!」
「軟弱な原始種族が。当たり障りの無い物を食いたければアサリの頭部でも齧っていろ」
「顔周りの肉は美味しいから最後までとっておく主義なんです!全く、こんなに相容れねえ人は初めてですよ!」
「私は崇高なプロセアンだ、浅知恵を身に着けただけの原始種族と相容れるはずがないだろう」
「言いましたね!あなたがどんなにご立派な星の下に生まれようと、果たして昆布を消化できるかな!?」

ぎゃーすかぎゃーすか。
酔っ払いVSプロセアンの言い争いは終わらない。
取り残されたシェパードは、軽い頭痛さえ覚えてこめかみを押さえた。
――ひょっとするとジャヴィックは、この時代に来て初めて誰かと同レベルでの会話が出来ているのでは?
そう思わなくもないシェパードだったが……

「やめなさいあなた達。少なくともバーで口論する内容じゃないわ」

「でも!」
「だが少佐…」

「やめなさい、いいわね?」

明らかに遅いレフェリーストップを合図とし、醜い争いは終息した。
シェパードは2人の間に割りいって、コートの女をちらりと見やる。
思わず聞き分けのない仲間用の対応をしてしまったが、一応彼女とは初対面のはず。

「ところで、あなたは?」

「私ですか?私は……あー、シェパード少佐!初めまして、あなたのファンです!」

少佐と顔を合わせるなり、打って変わって上機嫌な様子となった。結局名前は名乗ってない。
酔っ払いにまともな返答を期待する方が間違いなのだ。
へらへら笑うコート女と、不機嫌さが抜けないジャヴィックの2人に挟まれたシェパード。
なんとも言えない表情で、静かに首を振るのだった。

2016年 7月11日