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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

その名はラーメン

シタデルのとある一画、シルバーサン。

多くの種族がたむろするこの場所は、特に商店の活気で賑わっていた。
リーパーが銀河を攻めようと、サーベラスの攻撃を受けようと、知的生命体の営みはそう簡単に無くなりはしない。

「ラッシャイマー!」
「こんちは。店主さん、『ラッシャイマー』じゃなくて『いらっしゃいませー』ですよ。前にも言ったじゃないですか」
「おお、あんたか!久しぶりだな、元気にやってたかい?」

その一画に、ラーメンを販売している店舗があった。
店の名前は『NOODLE HOUSE』。人の好さそうな店主がせっせと客に声をかけていた。
その甲斐あってか、ちらほら麺にぱくついている客たちの姿が見受けられた。
店の形態としては、カフェテリアのような造りだったが、シタデルにあっては違和感なく溶け込んでいた。

「おかげさまで。あ、とんこつラーメンください。カタメンで」

そしてこの人間女性。
野暮ったいコートに身を包み、前時代的な雰囲気を漂わせている。
慣れた様子でラーメンを注文し、のんびり席に着いたところで……ふと妙な視線を感じたようだ。

「……」

視線の正体はクローガンだった。
身に着けているのは銀色のアーマー。確認できる顔や腕は、古傷やらまだ新しい傷やらで埋まっている。
そして彼女だけにガンを飛ばしている訳でなく、ラーメンを食べている客全員に向かって満遍なくメンチを切っていた。
クローガンが珍しいのか、はたまた他の客が居心地悪そうにしているからか。コートの女性は彼の隣にある丸椅子に移動した。

「…………」

やはりと言うか、そんな行動をとった彼女にクローガンは意識を集中させた。
クローガンの名はグラント。この場の人々は知る由もないが、シェパード少佐とウトィックで大暴れした後、怪我を負って入院している最中であった。

「何か用か、人間」
「いえ、用というか…食わないんですか、それ」

指さした先にはラーメンがある。
人間女性の関心は、クローガンよりもっぱら食べ物にあるようだった。
問われたグラントは、それが自分で注文したものであるにも関わらず、親の仇でも見るような眼差しで睨み据える。
……やがて低く唸るように言葉を絞り出した。

「明日、分隊仲間が俺を病院から脱走させる。その時にヌードルを食わせたいんだそうだ」
「ふむふむ」

彼女は興味深そうに2、3度頷く。
“今日の時点で抜け出してる”というツッコミを入れる者は誰もいない。

「だが俺は、ヌードルだけは苦手でな」
「なぜか聞いていいですか?」
「なぜだと?人間、お前はいきなりミミズを突き出されて食えるのか?」
「え、ミミズ食べたことないんですか?」
「あるわけないだろう!!」

女性のとんでもない発言に、思わずテーブルをぶっ叩くグラント。
クローガンの馬鹿力が、テーブルに浅い凹みを生んだ。

「お前はワームを食ったのか!?」
「乾燥させ……いやその、まぁそんなことはいいんです。見た目が苦手なんですね、はい。それよりラーメンですよ。苦手なら断ればいいじゃないですか」

何かを誤魔化すような笑みを浮かべて、グラントの前にあるどんぶりを指さす。
先ほどの衝撃でスープがこぼれそうになっているが、すんでのところで留まっている。
塩ラーメンらしいその麺は、既にふやけかけていた。

「あいつらに情けない姿を見せてたまるか!」
「意地ってやつですねえ」

器と睨み合いを始めるグラントを見て、彼女は感心したように目を細める。

「ヘイオマチ!」
「あ、どーも」

そうこうしているうちに、彼女の分のラーメンが出て来た。
ひとまず会話を中断し、女性はどんぶりに手をかけた。箸を使って音を立てないように麺をすする。

「俺には分からん。お前たちはよくそんなものを食えるな」
「そりゃあ美味しいですし……あっやべ、コートに汁が」

はねたスープと格闘するコートの女性。
グラントはグラントで、塩ラーメンの匂いを嗅いでは首をかしげている。
慣れた様子で箸を進めていた女性だったが、ふと思いついて顔をあげた。

「それで……あなたはそのラーメンをどうするんです。いらないんなら私にくださいよ」
「ふざけるな、これは俺の獲物だ!」

グラントは勢いよく立ち上がり、噛みつかんばかりの形相となった。直前まで座っていた椅子が真横にぶっ倒れる。
ラーメンと睨み合いを続けるうちに、何故か戦闘のスイッチが入ったようだ。
クローガンの咆哮をまともに受け、女性の方も少し怯んだ様子だったが……一瞬後には、獰猛な笑みを表情に乗せた。相手のテンションにつられたらしい。
――彼女は他人にノセられやすい性格であった。

「なるほど。あなたは獲物を目前にして、うじうじと悩むようなクローガンだと」
「なんだと!?俺は純粋なクローガンだ!!怖気づくような真似はしない!!」
「だったら食えばいいんですよ!ミミズに似てる?だから何です、あなたは戦士でしょう。戦士の本分は戦うことです。だったらこのラーメンも戦いだ!」

クローガンと同じように、彼女も勢いよく立ち上がる。さすがに椅子は倒さなかったが。
片手に箸を握ったまま、大げさに身振り手振りを加える。

「あなたは苦手なミミズを前にして、おめおめと引き下がるってんですか!?こんなのちっさいスレッシャーモウだと思えばいいんですよ!」

通りかかった人々が、ぎょっとしたように2人を見ていく。
それはそうと、グラントはラーメンに向き直った。がっしと器を両手で掴み、持ち上げ、高く掲げる!

「アイアムクローーガーーーン!!!」

己を鼓舞する雄たけびを上げ、どんぶりごと飲み込む勢いでラーメンをすする。
チャーシューを、メンマを、ナルトを、麺をスープを全て飲み干し、空になったラーメン鉢をダンッ!とテーブルに叩きつけた。

「ハァ……ハァ……」

口の端から麺が垂れている。
息を荒げるグラントに、女性は「どうです」と目で問うた。

「……………うまい」

おおーっ。
いつの間にか野次馬が集まっていたようで、そこかしこからまばらな拍手があがる。
時代が時代ならおひねりでも飛んできそうだ。
戦いを見届けたコートの女性は、満足げにうなずいている。

「感謝するぞ、人間。俺はヌードルを克服した!」

グラントは力強く足踏みをして、介添人たる人間女性に握手を求めた。
彼女もにっこり笑ってそれに応える。

「みたいですね。どういたしまし――」

ところで。
威勢のいい啖呵を切ったものの、彼女はれっきとした”非”戦闘員である。
最近は椅子より重い物を持ったことがない。
そんな女性がクローガンとまともに握手をしたら?それも戦友としての強く固い握手である。
そんなことをするとどうなるか……。

「あいったぁあああ!!!?」

こうなった。

人との付き合いは難しい。
それが異星人ともなればなおさらだ。
それを証明するかのように、コート女の絶叫が、ヌードルハウスに木霊した。

2016年 7月16日