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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

異世界からの物体X

闇色に濁った不気味な空に2つの月がぽっかりと浮かぶ。

名もなき世界。或いは名前の失われた世界。

数々の浮島と、赤黒い戦艦、姿見じみた形状の門、そして角の生えた巨大な要塞。

自然の息吹が存在しない荒廃した空間に──

「「「ザコ~~~~!!」」」
「あーれーッ!!」
「畜生ぉ!」
「ドム~~~」

若干間の抜けた悲鳴が轟く。
ゲートから人型の機械が排出され、オマケとばかりに小型の揚陸艦が飛び出してきたのだ。

「覚えてやがれガンダム野郎~~!いつかゼッテェ仕返しぐふぉっ」

赤い機械が戦艦の上に不時着する。
続けて数多のロボット達が、艦に墜落していった。
しばらくダンゴになってもがいていた彼らだったが……その中の一体、水色の機体が起き上がる。

「……うん?おいザクレロゲート!いつまで次元を繋げてやがる、さっさと閉じろ!」
「ざぁぁくれろぉぉぉぉぉ」

牙を生やした異形の門が、ぶるりと体を震わせる。

「奥歯になにか挟まったレロ~~。気持ち悪いレロ~~」
「ぁア?そんなモンどうだっていいだろ!
 いいか、ガンダムフォースの連中にまた攻め込まれるワケにゃいかねーんだ!ゲートを閉じろ、今すぐにだ!」
「~~、もうちょっとで取れるレロ~~」

聞いているのかいないのか。
居心地悪そうに巨体を蠢かせている、ザクレロゲートと呼ばれた物体。しばらくそうしていたかと思えば……

ぺっ、と人間を吐き出した。

「……は?」
「ウソお……」
「イヤ~ン」
「ザコ??」

細長いシルエットが宙を舞う。
放物線を描いたそれは、ノー・バウンドで戦艦に叩きつけられ、潰れた蛙のような悲鳴をあげた。


痛い。

『私』が最初に絞り出した感想はそれだった。
突然空中に放り出されたかと思えば、凄まじい衝撃が頭蓋を襲ったのだ。
視界にちかちかと星が瞬く。
まばたきを繰り返して邪魔な光を振り払うと、表れたのは複数の人影だった。

「……ゆっ……ゆゆっ……!有機物ザコーーーーー!!」

寸詰まりな体型をした緑色のロボットに、甲高く叫ばれる。
続けてどこかで見たようなデザインの機械たちが、狼狽えながらもしっかりとこちらを指し示した。

「チッ……ガンダムフォースの仲間か!?」
「てンめェ!おれサマたちのマグナムサイに汚ねぇ足のっけてんじゃねーよ!!」
「とりあえず、撃っとく~~?」
「デストロイヤードムさま!やっちゃってくださいザコ~~!」

バズーカだろうか。大口径の銃火器を向けられた。
これは怖い。
なにが悲しくていきなり悪の根城風な場所に異世界トリップした挙句殺されなくてはならないのだろうか。
死にたくない、純粋にそう思う。
私はなけなしの勇気を振り絞って反論を試みた。

「ンダァァるらぁあああああッ!!!」

「うおびっくりしたっ!?」
「急に叫ばないでぇ~~」

両手をポケットに突っ込んで、気弱そうな緑ロボに狙いをつける。
斜め下からえぐり込むようにメンチを切った。
肩をいからせ、ガチガチと歯列を打ち鳴らして威嚇する。

「ンだぁそのツラァよォー!!?ッけてんのかァッ!!?」
「やっ、やめるザコ!それ以上近づいたら撃つザコよー!」
「私を撃つだァ!?上等じゃねえか三下がーーッ!!真っ赤な血ィぶちまけたろかルロァぁァァッ!!」

精いっぱいの虚勢を張る。
言い忘れたが私はどこにでもいるごくごく普通の平凡な小市民なので、銃で撃たれたらコロっと死んでしまう。
これは突如として不幸に見舞われた悲劇のヒロインによるがんばり物語と言えよう。小公女セーラみたいなものだ。

「っていうか、なんでそんなに偉そうなんだよ!勝手に侵入してきたのはお前の方じゃねーか!」
「人様を指差すんじゃねェよ水色がァっ!!
 好きで不法侵入するワケねぇだろッ!望んでねーのに私がここにいるっつーことは誰かに連れてこられたんだ!サルでも分かる理屈だよなァ!?
 誰だ呼んだのは!ああ!?このユーリさんを召喚したのは一体誰だっつってんだよァーー!!」
「誰って……まさかコマンダー、いやそんなはずは……!」

もちろん適当な出まかせだ。だが少しは聞く耳を持ってくれたらしいな?
私はべろりと舌なめずりをした。
しかし不幸はまだまだ連鎖するらしい。続けて血の気の多そうな赤いロボットがマシンガンを構えてくる。

「ゴチャゴチャうっせえんだよ、気ン持ち悪い有機物が!!今すぐハチの巣にしてやるーーッ!!」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに。

がっ──!
と、髪の毛を後ろへ引っ張られ、成すすべもなく転倒する。
頭上すれすれのところを、マシンガンの弾が大量に通過していった。

「あークソ!避けてんじゃねー!!」
「……?」

上体を起こし、最初に引っ張られた頭皮へ手をやった。
どろりと液体のしたたる感触。
血だ。
最初の弾丸が髪を巻き込んで頭をかすっていったらしい。

「赤い水……ザコ?」
「ザッパーザクさま!あれって何ザコ!?」

頭頂部に弾痕を残されたので、だくだくと血液が流出する。
額を伝って顔全体に赤い筋が刻まれた。

「……ははははははは……」

頭が熱い。
身体の中の何かが痙攣する。
「こわぁ……」と、赤いロボが一歩身を引くのが、真っ赤に染まった視界の中で辛うじて確認できた。
ギンッギンに両目をかっ開き、笑う。鉄の味が口内に広がった。

「はぁははははははははははははは……!!」

「……この有機物、どうしても撃たなきゃだめドム?どっかに捨ててくるとかぁ……」

ドン引きしている様子のドム(仮定)はひとまず無視するとして。
私は四つん這いになってガサガサと赤いロボへにじり寄った。
髪と血とをざんばらに振り乱して主張する。

「ざッッけんなよテメェ私を誰だと思ってんだ!?霊長類やぞ?万物の霊長サマやぞ!?
 太陽系第3惑星の支配種に向かって何だァこのご挨拶はァッ!?絶滅させたろかドさんぴんがァーーッ!!」
「うげっこっち来やがっ……!」
「責任者出せやオラッ!ゴミが!!コマンダーとかいう野郎ンとこまで案内しろよやァッ!!」

一気にまくし立て、床に血液交じりの唾を吐き捨てる。
……勘違いしないでほしいのだが、こういった恫喝じみた真似は私としても本意ではない。
あくまで仕方なく。そう、生き延びるために仕方なく悪役の仮面を被っているのだ。

「案内しろっつったってその、コマンダーさまは……!」

事情でもあるのか、赤いロボットは当初の勢いを失くしていた。
周りの連中もこちらと関わり合いになりたくないらしく、やや遠巻きに様子をうかがっている。
チッ、これじゃ埒が明かない。アプローチの仕方を変えるか?

「お前達!──何をしている」

と、思索を巡らせたからという訳でもないだろうが……
やたらと存在感のある声が響き渡った。

「コ!コマンダーさま!」
「申し訳ありません、この有機物はその……!」
「助かったザコー!」
「いやいや助かってないザコ!怒られるザコよ!」

にわかに活気づくロボ軍団。
奴らが注目する方向を見上げると、巨大なロボットの顔があった。
あれが司令官なのかとも思ったが──違う。
顔の中央に位置する1ツ目の中、陽炎じみた揺らめきを放つ影。

「またしても虫けらの侵入を許すとは……どこまで私を失望させれば気が済むのだ?」

「ぐさァっ!!心に突き刺さるお言葉ぁーー!」
「ごめんなさいザコ~~」
「すみません、コマンダー!今すぐ始末いたしますので……!」

水色をしたロボットが、かぎ爪を構えながら振り返り、

「……っていねェし!!」

当たり前の事実をほざいた。
バカめ。殺されると分かってて同じ所に留まり続ける間抜けが居るかよ。
私は這いつくばって奴らの視線を掻いくぐり、コマンダーとやらが鎮座する窓の前へとよじ登った。

「貴様が侵入者か。何が狙いだ?」

ブゥンと音を立てて複数のドローンが私の周りを取り囲む。
あっこれビームとか出すやつだ。
小動物のように怯えた私はガっと首を90度ほど傾けた。顎を鮮血が滴っていく。

「いえね、ひとつばかり提案がありまして。私を使って有機物を根絶やしにしませんか?」
「なんだと……?」

かかった。
私は内心ほくそ笑んだ。悪の組織然とした見た目通り、こいつらの目的は至極単純なものであるらしい。
コマンダーの正面にどっかと座り込む私の周囲を、ドローンが蠅のように飛び回る。

「はァァっ!?いきなりワケの分かんねぇことを……!」
「るっせェな黙ってろこちとら司令官殿と面談中なんだよッ!!見りゃ判んだろゴミが!!死ね!!
 ──さて、どうします?私はこう見えても少々悪知恵が働くタイプでしてね。内部工作なんか得意ですよ?
 そして何より有機物……特に人間への憎悪にまみれている。
 ありゃあ救いようがありませんね。同じ人間なだけによく分かるんですよ、奴らはゴミ以下のナマモノだ。
 わらわらと繁殖するくせに徒党を組めば組むほど際限なく愚かになる。
 全部殺してスッキリしたい、そう願うのは当然のことじゃありませんか?」

ぺらぺらと心にもないことをまくし立てた。
私は人類愛に満ち溢れた心優しい女子なので、こんなに酷い台詞を並べるのは非常に心苦しいところである。

「それならば……今ここで貴様という『人間』を殺しても構わないな?」
「ええどうぞ殺したければご自由に!」

即答する。
こういう問答において重要なのは中身じゃない、スピードだ。
少しでも口ごもれば痛い目に遭う。軍隊と同じだ。

「……」

ビタリと静止したドローンが、品定めをするようにカメラをこちらへ向ける。
そして怪しく揺らめくコマンダーの影、その胸元から怪しい光が漏れ出る。
まるで何かと同調しているように……?
…………いや、気のせいだな。

「他の有機物もまとめて消してくれるんでしょう?だったら私が最初だろうと構いませんよ。
 それで……司令官殿のお答えは?」

「……いいだろう、1度だけチャンスをくれてやる」

「コマンダーさま!?」
「本当にこんなのを戦力に加えるおつもりで!?」
「生理的に無理ぃ~~……」

スクラップどもが滑稽にわめいた。
私は姿勢を変えて跪くポーズをとり、流れる血液へと追従するように頭を下げた。
赤黒い血の華が床に咲く。きれいだなぁ。

「戦力としてはともかく。こいつの憎悪はなかなか使える。
 ──人間よ!異なる世界の同族どもを、可能な限り消してみせろ」
「はッ。司令官殿の御意のままに」

可哀相なユーリさんは、異世界の人間どもに滅びを与えることを無理矢理に誓わされたのだった。
悲劇だわー。すっごく悲劇だわー。

「「「……納得いかねー……」」」
「「「ザコぉ~~……」」」
「くくくっ……まァ仲良くしようや、先輩方?」

私はグワッと犬歯を見せびらかして友好的に微笑んだ。

──そして。
話を聞けば、一週間後にでもまた異世界へ侵攻する予定らしい。
それまでの食料はバナナで補えとのこと。
なぜピンポイントでバナナを選んだのかは知らないが、まぁ贅沢を言える身分ではない。
3馬鹿へ仲良しこよしアピールを仕掛け、ザコどもへ徹底的に上下関係を教え込み、来たるネオトピア侵攻作戦遂行の日──!


私は普通にダークアクシズを裏切ってネオトピア側についた。

「「「ガンダムフォース、トリプルアタック!!」」」

「うぉぁあああああッ!!」
「寝返りやがったな畜生ぉぉぉッ!」
「信じらんな~~~い!」
「「「ザコザコザコーーーーーッ!!」」」

気持ちいいくらいによく飛んだスクラップどもが、ゲートに吸い込まれて異世界へ消えた。
悪いね、沈みかけたドロ舟と命運を共にする気はさらさら無いんだ。消えてくれや悪役ども。
私は親指を下に向けて哀悼の意を表した。

「君は一体……?」

いかにも正義の味方っぽい白いロボ──というかガンダムだ。私でも知ってる──に注意を向けられた。
すかさず涙腺を緩ませて、胸の前で両手を組む。

「あ、あのっ!助けてくれて、本当にありがとうございます!
 あいつらに掴まってて、それで私、逃げようとしてっ……ひっく……!」
「わわっ!?泣かないで、大丈夫だよ!あいつらはもうやっつけたからね!」
「さあ美しいお嬢さん、どうか顔をあげてください。美しいあなたには涙よりも笑顔が似合う……!」
「……う~~ん、なんだかアヤしいような気がするのだが……」
「なんだとぅ!?この美しく可憐な女性を疑うというのか爆熱丸ッ!?」
「体温、脈拍、発汗、その他の数値において彼女が嘘を付いている可能性は0.44%だ」
「そ……そうか?キャプテンがそう言うのなら……」

4人ともコロっと信じてくれた。
ウソ発見器?そんなものは意識すれば誰だって騙しおおせる。純粋無垢なキャプテンさんはそのことを知らなかったようだがな。
そんなことより勝ち馬に乗れたぞ。これでハッピーエンドだね!

と思ってガンダムフォースの長官とやらに挨拶に行ったら変な仮面男に問答無用で奇妙な部屋へ連行された。
白い。あまりに真っ白な部屋。
強烈に嫌な予感がしたため土下座しながら命乞いをしたが、「大丈夫、ちょっと映像を見てもらうだけさ」と大嘘を吐かれた。

何が始まるんです?

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ここはひととロボットが仲良なかよらす理想郷りそうきょう、ネオトピア!
こんなに素晴すばらしい世界せかい一員いちいんになれて、わたしはとってもしあわせだなあ。
よ~し、今日きょうもお仕事しごとがんばるぞ!
掃除そうじ、お掃除そうじたのしいなあ~~~っ!

Happy End.

2018年 9月23日