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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

すぐそこにある幸せ

そして”彼”がマスクを外すと、長い髪と整った顔立ちをした女性が現れたのだった。

「なんだよ、ご先祖様……?俺の顔に何かついてるかい?」
「うわお。」

子孫がこの現代に来てからしばらく経つ。

未来とは何もかも勝手が違うこの時代。
子孫も最初こそ戸惑うことはあったものの、先祖とともに過ごしていくうち、次第に適応していった。
なにせ彼女は未来人。
適応能力が高いからこそ、今まで生き延びることができたのだ。

ただひとつ、些細な問題が横たわってはいたが。

「ナマステ……ナマステ……」
「子孫?」
「え、なんだ?俺、また何か言ってたかい?」

これだ。

部屋でヨォヨォの漫画を読んでいるときも、先祖に料理を習っているときも、果てはホームセンターで観葉植物を見ているときも。
彼女の心に少しでも空白が生まれた途端、ナマステが発生してしまうのだ。
未来に居た時から子孫はカレーにこだわっていたが、最近ますます酷くなってきている気がする。

「……今日のご飯もカレーにするかな」

先祖は呟く。
子孫に蓄積していくナマステ濃度を上げること、それが何を意味するかも知らぬまま。

そしてある時。
遂にその日が来てしまった。
広いとはいえない先祖の部屋に、妄執を含んだ悲痛な声が響いていく。

「ナマステ……ああ……ご先祖様……そこにいるのか……?」
「子孫しっかり!!落ち着け、カレーは昼に食べたばかりだろう!?」
「ナマステ……ナマステ……ナ、マス、」
「しそぉぉぉぉおん!!!」

膝から崩れ落ちた子孫を、抱きかかえるようにして先祖が支える。
カレーからナマステ因子を過剰摂取したため、特発性の重篤型ナマステ障害を引き起こしてしまったのだ。
このまま命にかかわる――こともないが、身も心もカレーに囚われ、カレー廃人になってしまう。

「うおお……それは……!」
「っ!ダメだ子孫、そのチラシは!」

部屋の隅に転がっている新聞の折込チラシを見つけ、子孫の瞳に光が宿る。
ただしそれは、更なるナマステを求めんとする狩人としての光だった。

「本格インドカレー、大特価セール……!!」
「や、やめろ子孫!今そんなものを食べたら、子孫は……!」
「ああ……俺はカレーになるだろうな……あの刺激的な香りに包まれて、炊き立てのご飯に横たわるんだ……!」

その目に決意の炎を灯し、子孫はチラシを握りしめ、よろよろと部屋の出口へと近づく。
そんな彼女を放っておけるはずもなく、先祖は子孫の腕にすがりついた。

「離してくれご先祖様!ナマステが俺を呼んでるんだ!」
「そう言われて離すわけがうわああああ」

全体重をかけて引き留めても、未来人の力には及ばない。いとも簡単に引きずられていく。
ついには腕を振り払われ、子孫から引き剥がされてしまった。
彼女は依然として進み続ける。既に部屋は突破された。次は玄関の扉を開けるだろう。
時間がない。

「ナマステ……ナマステ……」

どうするべきか。
先祖に打てる手は少ない。すぐに用意できるものは漫画、花瓶、バールのようなもの、紙とペン……
どれを使っても説得できる気がしない。
しかし、ここで諦めるわけにはいかないのだ。
絶望は愚か者の結論。
悲惨な未来から現代へやってきた子孫を、みすみすナマステ因子に奪われるわけにはいかない!
僅かな時間の中で、先祖は考え、考えて……とりあえず蛇口をひねった。

「子孫!これをくらえー!!」
「ナマ、おわっ!?」

盛大に水道水をぶちまける。

「なにすんだよご先祖様!?いきなり水ぶっかけるなんて、正気じゃないぜ!?」
「思い出せ子孫!それはなんだ!?」
「え?は?……水だろ?」
「そう、飲んでも肌が緑色にならないし、尻から手も生えてこない安全な水だ!」
「ご先祖様、それ……」

子孫が何かに気づいたように、ずぶぬれになった頭を振る。
かつて自分が先祖に向けて言った言葉だ。

「……忘れてたよ。初めてご先祖様に会った時、透明な水があんなに嬉しかったのに。いつの間にかカレーのことしか考えられなくなってた」
「子孫……」

そこには最早ナマステ暗黒面による影響はなく、ただ呆気にとられた美女の姿があるだけだった。

「そうだよ、俺はカレーにこだわりすぎてた。水のすばらしさとか、花の香りとか、クマのモフモフとか、幸せになれるものは他にもたくさん……って、うわ!」

先祖は感極まって、勢い良く子孫に抱き着いた。
自分も水で濡れてしまうが、そんなのは些細な問題だ。

「ありがとう、ご先祖様。なんていうか……目が覚めたぜ」

子孫を精一杯抱きしめたまま、力強く頷いた。
これからも大変なことはあるだろう。再びナマステ因子が猛威をふるう場面もあるかもしれない。
しかし、彼女と一緒なら、どんな困難だって乗り越えられる気がした。

子孫と先祖の不思議な共同生活は、まだ始まったばかり。

2017年 4月9日