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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

果てなき戦い

シタデルの一画、シルバーサン。
そこのゲームセンターに、どこか子供っぽい雰囲気の女性が座っていた。
服装は黒いパーカーにホットパンツ、いかにも休日然とした適当なものだ。ワンポイントで連合のマークが入っている。

「おい」

そんな彼女が夢中になっているのは、最近導入された『リレイディフェンス』というゲーム。
ミサイルや船を巧みに操り、いかに長くリーパーの侵攻から地球を守れるかが肝だ。

「おいこら」

1プレイにかかる費用は200クレジット。あからさまに富裕層向けのゲームである。
せわしなくコントローラを動かして、リーパーの船を打ち落とす。

「聞いてるのか?」

「安置はここでいいはず……初期ならともかく、余裕のない今の段階でやたら船を送るのは悪手ね。せいぜい同時押しに留めておくのが賢明かしら」
「君のことだ!」

……ゲームの画面に、赤く染まった地球が映る。続いて『おめでとう、ハイスコアだ!』との音声が響いた。
納得いく点数を出せたのか、女性は嬉しそうに背後を振り返った。胸に手を当て、意味なくウインクなど飛ばしてみる。

「見てよこの点数。私の腕も捨てたもんじゃないわね」
「気づいてたんならさっさと返事をしてほしいんだが。私を不審者にするつもりか!?」

さて、先ほどから彼女に話しかけているのはサラリアンだ。
関係性は仕事を共にする同僚である。加えてそこに『振り回す側と振り回される側』という注釈を付ければ完璧だ。
わめく彼をまるっと無視して、女性はオムニツールをゲーム機にかざす。

「あんたからわざわざ会いに来るなんて、めっずらしい。緊急の要件?」

200クレジットがじゃぶじゃぶとつぎ込まれていく。
サラリアンは何かをこらえるように嘆息し、データパッドを取り出した。その画面には論文らしき形式の文章が刻まれている。

「ソーリアンの洗脳についてだ。あの論文を出したのは君だろう?尋ねたいことがある」
「……?ああ、あのそこそこ真面目に書いたはいいけど、芳しい反応はゼロで歴史の闇に葬られたやつ?そうね、確かに書いたのは私だけど」

少々思索したかと思えば、この台詞。なんとも適当な認識だが、彼女にとってはこれが事実だ。
一方、悲しいかなその適当さに慣れてしまったサラリアンは、裏が取れたことで意気揚々と語り出す。

「そうか思った通りだ。質問したいのはここだ、『結束が洗脳に対する抑止力に繋がる』という箇所だな。もっと具体的に教えてくれ。リーパーの洗脳対策にも応用できる可能性がある。そうだズゥズホープの生存者は」
「はいはい、ちょっと待ちなさいってば」

彼女はゲーム画面を注視したまま、一瞬だけコントローラから手を離し、ぐいぐい視界に入ってくるデータパッドを押し戻した。

「期待してくれたのはありがたいけど、それ書いたのって2年以上前のことでしょ。よく覚えてないのよね」

サラリアンは肩の高さまで両手を挙げる。『なぜ!?』のポーズだ。

「そんな、じゃあ…!」
「当時使ってたデータはまだ残ってる。後で送ったげるから待ってて」

と、女性は画面上のソルリレイへと船を飛ばした。
――5秒も立たないうちに、彼は床を靴で打ち鳴らし始める。カツカツと。

「…………まだか?」
「まーだ。ほんとせっかちよね。…それにしたって、生真面目なあんたがよくこんな所まで来たもんね。シルバーサンよここ」
「いくらメールをしても返事はない、電話にも出ない、マンションを訪ねてももぬけの殻だぞ、他にどうしろって言うんだ!?」
「やだ、あなたにそんなストーカーまがいのことをさせてしまうなんて……私の美しさったら、罪」

冗談半分に、美しさは罪ぃ~などとすこぶる古い歌を口ずさみ、言及から逃れる。ついでに若干目が泳ぐ。
そんな女性をサラリアンは冷たく一瞥し――具体的には、ホットパンツを着用しているせいで露出の多い脚を見下ろし、

「君なんかよりアサリの方がよっぽど魅力的だ」
「うわ。ちょっと傷つく。」

台詞ほどには傷心してない様子の人間女性は、「アサリも人間も大して違わないのに」とこぼす。
彼はゲームの終わりをまだかまだかと待ちつつも、律儀にぼやきに応えていく。

「君の眼は節穴か?どこが人間と似ているんだ。あの肌はサラリアンにそっくりだろう」
「肌ねえ。そうかしら、アサリは青色、あんた達は緑色でしょう?なんでそういう風に思うんだか」

首をひねる女性だったが、ふと以前学んだ雑学を思い出した。
大昔の日本では、まだ熟していない緑色のトマト等を『青い』と表現していたそうだ。
その事実を鑑みて推理すると……

「あんた野菜だったの!?」
「どうやってその結論に行きついた!?」
「まあ落ち着きなさいよ。そんなに怒鳴り散らすと健康に悪そう」
「誰のせいだと思ってる!?大体、君の故郷が襲われてるというのによくゲームなんか出来……!」

――と、ここでようやくサラリアンがリレイディフェンスの趣旨に気づいた。
ゲーム画面に映る地球は、既に何か所か赤々とした炎に包まれている。

「よくそんなゲームが出来るなっ!?」
「カリカリしないの。あんたも休暇中でしょう?ちゃんと休まないと」
「休むにしたってもっと穏便な選択肢はなかったのかこう、ヌードル食べるとか!」
「分かってないわね。休息に必要なのはスリルとサスペンスよ」
「休息の定義を今ここで君と議論してもいいんだぞ!?」

彼の絶叫に応えたという訳でもなかろうが、ゲーム画面から再び『おめでとう、ハイスコアだ!』との音声が響く。
ランキングの1位が更新される。868点というスコアの隣、名前欄には『IT’S_ME!』と表示されていた。なんて傲岸不遜。

「やったあ、MOUSEとかいう奴の得点を超えたわ!」
「……そんなに面白いか?」
「ごらんの通りっ!」
「なら私もやってみようか」
「そうね、ゲームシステムからしてあんたに向いて、切り替え早っ!?」

サラリアンの宣言に、『IT’S ME!』ことパーカーの女性は驚いて椅子から立ち上がった。
彼自身は、何でもない風にゲーム画面の操作説明を読んでいる。

「休めと言ったのは君だろう?最近仕事詰めだったのを思い出したんだ」
「ああ、うん、そうね。……ええと、座る?」

賛同されたらされたで、軽く動揺する女性をよそに、彼はオムニツールをかざして200クレジットをつぎ込んだ。

「……ちょっと悪い気がするから今のうちにデータ送っとこ」
「操縦桿はこれだな。ん、何か言ったか?」
「いま気にしなくてもいいことよ」

さっそく画面上でミサイルを飛ばし始めるサラリアン。
女性は彼の背後をうろうろする。完全に立ち位置が逆転した。

「あ~なんだか落ち着かない……」
「おい、こうしてスコアを上げることでこちらにどんな利益があるんだ?」

そうして彼は、ゲームセンターに対する根源的な疑問を抱く。
女性はぽりぽりと頬をかきながら、少しばかり思案して、

「そこのランキングに載るだけなんだけど、それじゃあ味気ないし……うん、せっかくだから勝負形式にしようかしら。私よりいい点数出したら何でも言うこと聞いたげるってことでどう?」

と、爆弾を落とした。

「そうか君がなんでも……は!!?」
「ええ。この得点を超えられたらの話だけど」
「いやそうか、それは、は?」

動揺が操作ミスを生み、地球は炎に包まれる。
ここで彼女が『私に出来ることなら』という枕詞をつけないあたり、行き当たりばったりな性格が如実に出ている。
滅亡する地球。
新たにじゃぶられる200クレジット。
ただ1つ確かなのは、868点を超えれば輝かしい未来が待っているということ。
サラリアンは決意と希望に包まれた。

「……私が勝ったら、もう連絡を無視しないな?」
「まあね。休暇中もきちんと返事したげるわよ」
「私にホラー映画を無理矢理見せて感想をせびることも無くなると?」
「うんうん」
「君が忙しいからといって、シンアキバまで妙な本を買いに走らされることも無くなるのか!?」
「あーうん……その節はお世話に……」
「この前スシの店へ行った時みたいに『本場ではワサビをたっぷりつけるのよ』というような嘘も2度とつかないと誓うんだな!?」
「のたうち回ってたもんねあんた…」
「望むところだ!今日こそ君の支配下から逸脱してやる!!」

凄まじい気迫をまき散らし、神速でコントローラを操る。
その背後にたたずむ女性は、どこか納得のいかない様子で普段からの行いを振り返っていた。

――15分後。

「接触悪いだろうこれ!」

すっかりゲームに取りつかれたサラリアンが、実に大人げない台詞を吐いていた。またしても地球が炎に焼き尽くされる。
現在、彼の得点はランキングにすら食い込んでいない。彼女のスコアに追いつくのはいつの日になることか。
人間女性はチェシャ猫じみた表情を浮かべ、彼の両肩をぺちぺち叩く。

「ねえどんな気持ち?サラリアンが反射神経で人間に負けるのってどんな気持ち?」
「腹立つなその言い方!?」
「無理しなくてもいいのよん。ちょっとハードルが高かったかしら」
「馬鹿を言うな!絶対に君には屈しないからな!!この身が朽ち果てるまで戦ってやる!」
「…私、恐怖の大王か何かなの?」

やはり納得いかない女性のぼやきが、シルバーサンに消えていく。
結局、勝負は無期限延長のていとなり、彼が諦めるまでリレイディフェンスを陣取る光景は続くのだった。

……ちなみに彼女の868点というスコア。
その後やって来たシェパード少佐にあっさり追い抜かれることになるのだが、それはまた別の話。

2016年 8月1日