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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

肉屋の災難

ザケラ地区。
薄暗い光と、湿気と、塵が充満するろくでもない地区。
シタデルという世界の底辺。終点。あるいは……何でもいい。とにかく肥溜めみたいなところ。

私はそんなザケラ地区の、しがない肉屋の一人娘。
……狭い道のど真ん中を占領してる、屋根すらないボロい売り場を『店』と言うんならの話だけど。

「ああ、今日も私の時間が無駄に消費されていく…」

あんまりにもヒマだったから、天井を仰いで大げさに嘆いてみたりする。
ごちゃごちゃした配線と人工灯が目に優しくない。
ついでに冷房がとてもさむい。

「よお、今日こそアサリの肉を売ってもらうぞ」

……そこに現れる大きな物体。
つぶらな瞳にギザギザした歯、短い尻尾がチャームポイント。
怒ると人間の背骨をへし折ったりするのがたまにキズ。
早い話がクローガンだね。

「また来たの、お客さん?普通の肉買ってよ」

このお客サマが相手なら、どうしてもぞんざいな態度にならざるを得ない。
一体何に影響されたのやら。
ちょっと前からこんな具合に、アサリの肉をよこせとうるさく騒いでくる。
私は店の隅に置いてある古ぼけたデータパッドを手に取った。

「ほーら、これ店長からの伝言ね。読んであげよっか?」
「店長だと。そういえば最近あの男を見ていないな…死んだか?」
「勝手にうちのとーちゃん殺さないでくれる?」

ここの店長は、仮にも一応名義的にはかろうじて……私の父親だ。
そろそろこのクローガンが来る時間だって逃げたことから、その責任能力はお察しだけど。
こんなか弱い女の子にクローガンの接客を任せようだなんて、鬼畜以外の何物でもない。今晩のおかずは高い野菜を使ってやろう。
そんなワケで、父親から渡されたデータパッドをひらひらと振る。

「わかりやすく言うと、『うちにアサリの肉は置いてない。ちゃんとお品書きにのってるやつを注文してね』ってことなの」
「そう言うな。本当は隠してるんだろう?誰にも情報は漏らさないから早く出せ」
「違うって言ってるのにぃ」

私の苦悩もなんのその、クローガンが店の周りをうろつき始めた。無遠慮に商品を物色してる。
そっちは豚、こっちは牛、ヴァレン……おいやめろ、それ高いやつなんだから。触んないでよ?触ったら買ってよ?
商品にべたべた触られても困るんで、『しっしっ』と手で払う仕草をする。

「冷やかしなら帰れー。星にー。」
「なんだと、お前たちだけでアサリの肉を楽しもうというのか?」

死ヌほど凶悪なご尊顔が、まともにこっちを睨んでくる。
あんまり近づかないでほしいなあ。頭から齧られそうで嫌なんだけど。

「あのね。私らはアサリを食わないの」
「嘘をつくな!だったらお前は普段から何を食べている!?」
「時間がたって変な色になっちゃったお肉だよ。なに、人ん家の食卓事情にケチつける気?」

じとーっと目を細めてやると、それ以上踏み込むつもりもないようで、クローガンは商品に興味を移す。
うん、それはそれでやめてほしい。

「本当に置いてないだと……?どうなってるんだ、ここで5軒目だぞ、どこにも無いなんて話があるものか!」
「1軒目で諦めるでしょフツー……」
「クソが!!」

その根性だけは褒めてあげたい。
冷たい床に膝をついて、世界に絶望し始めたクローガンに、しょうがないから構ってやる。

「あーよしよし、アサリだけがお肉じゃないって。ね?」
「ふざけるな!お前に何がわかる!?」
「わかりたくないでーす。……っとに、あんな真っ青のどこがいーんだか」

ああ神よ。どうして私はこの寒い中座り込んでるクローガンとアサリの肉について語り合わなくちゃなんないんですか。

「あの色がいいんだろう!!」
「えー。ないわー。引くわー。」
「じゃあお前は欲しくないのか!?あのアサリだぞ!」
「フツーにヤだしぃ。想像したくないしぃ。」
「あらそう。それは残念ね」

馬鹿な会話に、針のように冷徹な言葉が突き刺さる。
ぎぎぎぃっ、と後ろを振り返ると、買い物袋をひっさげた、アサリの奥様がいらっしゃった。

「知らなかったわ。貴女が私たちを嫌っていただなんて…」

肌の色は深い青。このひとは…最近ひいきにしてくれるようになったお得意様!
落ち込んでそうなセリフとは裏腹に目が冷たい。
これは軽蔑のマナザシだ……!

「ま、待ってください!違うんです!あいつと言ってたのはそういう女性の魅力的なアレと違くて!!」
「あら、でも『青はない』んでしょう?無理しなくてもいいのよ」
「してませんしてません!!」
「なんだ?さっきまでアサリを否定していたくせに」

クローガンが余計な口をはさんできたぁ!!
そりゃあね!食べ物に青を使っていいのはブルーハワイだけだって数百年前から決まってるし!でも今言ってるのはそういうことじゃないの!!
私はクローガンを押しやって、どうにかここから追い払おうとする。
……体重の差があるからびくともしない!この野郎!!

「うっさいわ、人聞きの悪いこと言わないでよ!?あっお客サマ 行かないで ほら今なら10%もオマケしちゃうっ!」
「そうか、あいつをこれから加工するんだな!?手伝ってやってもいいぞ!」
「あんた馬鹿なの!?脳ミソに何を飼ってんの!?あーっ!お客サマーっ!!」

シタデルの最下層、ザケラ地区。
そこの路地に居を構える、こだわりの精肉店をご存知ですか?
より良いお肉を、お求めやすい価格で提供します。
お近くにお越しの際は、ぜひぜひお立ち寄りください

……しくしくしく……

2016年 7月25日