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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

闇を懐う

伝説が眠る地、辺境の国。
ラクロア王国は私の故郷だ。

故郷だった、と過去形になる時も近いのかもしれない。

昼だというのに、月も見えない暗い空。
銃声と剣戟が響き渡り、羽音が低く唸りをあげる。
ラクロア全土が侵略の波に飲まれていた。

「……はあっ、はぁっ……はあ……!!」

その渦中に向かって走る。
ひらひらした制服――いわゆるメイド服と呼ばれる衣装のまま、せめて誇りを持って死ねるように。

ダークアクシズの侵攻は、とうとうラクロアを陥落させるに至った。
まるでチェスでも指しているかのように、素早く計算され尽くした手順を踏んでの攻撃。
一介のメイドである私にはよく解らないが、敵の組織は相当強力なのだろう。

「っやあ!!」
「ド~ガ~~~!!」

投げた槍が機兵の瞳を撃ち抜いた。
同時に火の魔法陣を展開し、周囲のバグバグを焼き払う。

(先輩もメイド長も、みんな石になってしまった。もう安全な場所なんてないのなら、せめて……!)

バグバグは魔法で撃ち落とし、機兵には顔や関節部分を狙って武器を投げる。
先へ、先へ。
敵の屍を踏み越えて、倒れた騎士達から武器を借り、ひたすら倒すべき存在のいる場所へ。

(早く……行かなくては。一体でも多くの敵を、道連れに……!)

石像や遺体に躓きかけ、何度も羽虫の針がかすり、それでも武器を振るい続ける。
感覚だけが研ぎ澄まされて、うまく頭がまわらない。
こんな時に蘇ったのは、いつだったかラクロアが平和だった頃の、リリジマーナ姫の柔らかい微笑み。
そして最後に目にした、決然と使命を果たそうとする御姿。
――そういえば、死に場所を求めて戦うことを選んだ私に、死ぬことだけはなりません、と。

姫は本当に優しいから。
私のような名前もわからぬメイド風情に、あんなにも心を砕くほどに。
だからこそ、姫の身を危険に晒すことだけはあってはならない。

なのに。

「……ディード、さま……?」

ごうごうと。
ダークアクシズの機兵の群れが、あまりに多いバグバグが、美しかった空を覆い隠す。
火薬と鉄のにおいとが、ラクロアの空気を蝕んでいく。
一人、また一人と、生き残った騎士たちを斬り捨てていくのは、まぎれもなく氷刃の騎士ナイトと謳われた方。
茫然とたたずむこちらに気づくと、大鎌を下ろして見たこともない嘲笑を浮かべる。

「おや、まだ動ける人間がいたとはな」
「あの……これは、一体……」
「わざわざこんな所までやって来るとは、よほど姫の身が心配になったか。がしかし……こちらが手を下すまでもなさそうだ」

視線を辿って、ようやく脚が動かなくなっていることに気付く。もう両足の感覚はない。
立ち止まっているうちにバグバグに刺されてしまったようだ。思わず武器を取り落として、自分が震えていることに気づいて。
しかし今は、今はそれより……!

「まさか……」

まだ動かせる右手でなんとか手を伸ばすけれど、彼はぞっとするほど冷たい眼差しでこちらをただせせら笑う。
衝撃と混乱に胸の奥が焼けただれ、それとは裏腹に体が冷たくなってくる。もう身体の自由はきかない。

(どうして、なぜこんなことに……。これは、なんだというの……?)

思考が現状に追いつかない。なんとか考えなくてはと思っても、心の底から記憶の断片が逆巻き、溢れる。
寒色を基調とした美しい鎧。
リリ姫を見つめる穏やかな横顔。
たまに騙される迂闊な後ろ姿。
時折覗かせる物憂げな雰囲気。
生真面目で優しい人柄。
冬の湖面のように澄んだ瞳。

(私は……私は)

「フッフフフ……愚かな奴だ。さっさと逃げ出せば良かったものを」

彼は慣れた動きで大鎌を構える。
そこに一切の慈悲はなく、初めてこの方を恐ろしいと感じた。
ああ、私も殺されてしまうのでしょうか。横たわる騎士達と同じように。これで終わりだというのでしょうか。
……裏切った。この方が。姫様を、ラクロアを……全てを。

ディード様。

動かぬ唇で最後に紡ごうとした言葉は、家族でも、敬愛する姫でもなく。裏切りの騎士の名前だった。
それが何を意味するのかは分からない。
……分かっては、いけない。

「本当に愚かな存在だ。貴様らも……私も」

視界が灰色に閉ざされていく。
闇色に陰った彼の瞳を、まるで泣いているようだと錯覚した。

2014年 12月4日