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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

道化と道化の平和ごっこ

「チッ……こんな国など滅びてしまえ」

剣と魔法と騎士の国、ラクロア。
平和な城下町の往来で、独り陰鬱に毒を吐く、不審なMS族がいた。
彼は嵐の騎士トールギス。
騎士の称号を名乗ってはいるが、ラクロア騎士団への正式な入団審査には毎度ことごとく落ち続けている。
生来の高いプライドと激しい自己顕示欲をへし折られ、彼の心は今や恨みつらみに満ちていた。
そして冒頭の台詞に繋がる。

「いっそのこと反乱でも起こして──」
「やーやートールギスさん!ご機嫌うるわしゅ~っ!」

  ぱたぱたぱた。

気楽に手など振りながら、ひとりの少女が慌ただしく駆け寄ってくる。
これといった特徴のない平凡な体躯と顔付きを、緑の布ですっぽりと覆っている。着ているのは、魔術師用のローブだった。

「貴様か……それは一体何の仮装だ?」

浮かべていた不穏な計画も忘れ、トールギスは呆れた声を出す。
この人間の名は、ユーリ。魔導士見習いにして、トールギスの知人である。
前々からおかしな人間ではあったが、全身を緑一色で覆うほど、頭のネジは外れていなかったはずだ。

「仮装?やだなー違いますよ。これは未来の魔導師ルックです!」
「貴様は深刻な馬鹿か!?そんなおかしな格好をした魔導師など存在しない!」
「いますって絶対!緑色でぼんやり透けてて、常にふよふよ浮きながら不気味な含み笑いを浮かべてるんですよ!こう、昨日お昼寝してる時にですね、びびっ!ときたので間違いありませんっ!」

胸元で拳を固めつつ、瞳をきらめかせて断言する。
なにやら怪電波を受信した少女のたわごとを、トールギスは地団駄すら踏みつつ否定する。

「そんなふざけたものはこの世に存在せん!断じておらん!」
「いますよいますよ絶対に!」
「居ないと言っているッ!!もしもそんな魔導師が存在するのなら、幻覚ヒルの沼を百周泳いでやってもいい!」
「泳げないくせによく言う……」
「何か言ったか!!?」
「ははははっ、何のお話でございますか!?今日も今日とてトールギス様は気品に満ち溢れていらっしゃいますねぇいや全く、ラクロア一の美男子であらせられる!」
「フン!当然だ」

何の脈絡もないおべんちゃらに、あっさり誤魔化されたトールギスは、鷹揚に頷いて踵を返した。
彼女は何か言いたげに口元を動かしていたが、すぐにその背中を追って、ぱたぱたと足音を響かせた。

「そうだトールギスさんに用があったんですよ、これからカフェにでも行きません?昨日美味しいとこ見つけたんですよ。もちろん私のおごりですっ!」
「んん?そうだな、どうしてもというなら考えてやらんでもないが──そのローブは脱げ。」
「ど、どうしてですか!トールギス様ご乱心!?」
「乱心してるのは貴様の方だ!!お前は全身緑色の生き物を連れて歩きたいと思うのか!?」
「むむむ……想像するとかなり…………らぶりぃ♥」
「死ね!!」

トールギスはユーリの脳天に鉄拳を落とした。
ごぎっ──!!と、人体が発してはいけない音が鳴る。

「痛いよー痛いよー、私いつか死んじゃいますよー!しくしく。」
「安心しろ、貴様はその程度でくたばらん」
「……普段の素行がこんなだから騎士団に入れないんじゃないかなぁ……」
「何か言ったか!!?」
「いーえなんにも!!」
「聞こえていたぞ嘘を付くなァ!!!」

  どごしゃあっ。   

「ひぃーアーーーーーッ!!!」

往来で放たれる壊滅的な攻撃呪文。
ゴムまりのように天高く跳ね飛ばされたユーリは、あえなく路面に激突した。

「フン!全く、どいつもこいつも美しくない……!!」

嵐の騎士は、その名の通りに荒れ模様の機嫌を呈しつつ、肩をいからせて大通りを立ち去る。
周囲の人々は彼らの狂騒に慣れているのか、『またか……』と、心底迷惑そーな視線を注いでいた。

そしてぶっ飛ばされた彼女はというと。

「いてててて……」

ぴんぴんしていた。
乱れまくったローブを整え、攻撃呪文でヘコんでしまった石畳を手早く魔法で修復する。

「……ほんとにもう、こんな目立つ場所で国家転覆の予告するとか、馬鹿なんじゃないのあの人。ちゃんと私がついてないと……」

──誰にも聞こえない、喉の奥での呟き。
少しだけ愚痴を吐いた後は、またその瞳をきらめかせる。
無意味に笑顔を振りまきながら、トールギスの背中を追いかけるのであった。

「待ってくださいよトールギスさーん!トールギス様~!T様ぁ~~っ!!」
「うるさい略すなッ!!貴様も俺を侮辱しているのか!?」
「なんですとっ!?T様を侮辱するやつは私がぶん殴ってあげますよ!」
「よぉし分かったではまず貴様が貴様を殴れ」
「はいな!……ぐフぅっ──!!いいパンチしてるぜ、さすがは私ィ……!!」
「付き合ってられん……!!」

2人の影法師が伸びていき、騒がしくも乱暴に過ぎ去っていく。
これはあくまで友好的な掛け合いであり、過激に聞こえる発言は全て悪ふざけであると、そう周囲に主張するかのように。

ラクロアの空は晴れていた。

少なくとも、今はまだ。

2018年 7月17日