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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

みっどないと・ゔぃじたー

星の瞬きを、月の輝きを。淡い雲が優しく撫でるネオトピアのとある夜。
気配を殺し闇に紛れる忍がいた。
草木までもが腑抜けた印象を与える未来都市の郊外は、身を隠すには手頃なところ。
10個目の城落としに失敗した彼は、天宮に戻る余裕もなく、やむを得ずネオトピアへの潜入を続けていた。
潜んだ場所がどこぞの民家の庭先だったのはただの偶然、だったのだが。

「そんなところで寝てたら冷えるよ?」

気配もなく現れた、なよなよしい生物1人。ひょこりと茂みを覗き込む。

「失せろ」

面倒以外の何者でもない。
腕の刃を突きつけるが、闇夜にもぎらついた剣光を放つはずのそれを、しかし相手は呆気なく両手で掴んで脇へと退かした。
邪気ひとつないきらきらしい瞳で観察してくる。

「お兄さんモビルシチズンなの?家出中?」

――絡まれた。
虚武羅丸は直感的にそう悟った。

「その装甲おもしろい形してるね」

思った通りその人間は『へびみたいで楽しい』だの『トゲトゲしててかっこいい』だの『ずっとここにいるの?さみしくない?』だの訳のわからないことを言ってくる。
息の根でも止めようかと考えたが、未知の生物なだけに斬った中から何が出てくるかも分からない。不気味である。

「生憎だが小娘の相手をしてやる程暇ではない。大人しく帰るんだな」
「そうなの?散歩してたらさ、たいくつそうに見えたから話しかけちゃったんだ。ごめんね」
「………」
「あのね、私はユーリ。ここの家にひとりで暮らしてるの、よかったら上がっていかない?大丈夫、こわくないよ~」

言うにこと欠いてそう来るか。
呆れているうちにユーリの中では勝手に話がまとまったらしく、嬉々として腕を引いてくる。
――抵抗しても無駄。なぜかそんな一文が脳裏をよぎった。


「ふふー、いらっしゃいませ紫の人!」

半ば無理矢理引きずりこんだ事実など欠片も感じさせないお人好し全開の笑顔で、家主はにこにこと虚武羅丸を手招きする。
ネオトピアでは一般的な民家。テーブルやソファ、花瓶に額縁ぬいぐるみ、そして彼女の周りに漂う柔らかな雰囲気に包囲され、虚武羅丸は身構えた。

「……念のために聞いておこう。どういつもりだ」

まさかこれが純粋な親切心からだなどという解釈が出来ようなずもない。いくら平和ボケしているとは言え、自宅の庭に侵入している忍を易々と招き入れるような生物は存在しない。
常識に基づいてそう結論づけた。

「なにが……?う~ん、お兄さんと色々お話したいかな。あ、でも眠たくなったらいつでも寝ていいし、帰りたくなったら引きとめないよ」
「……なんなのだこいつは」
「お腹すいたの?」
「違う」

くりくりとした双眸から逃げるように視線をそらす。調子が狂って仕方ない。

「は!うっかりしてた。なにもないのもちょっとね、待ってて」

かと思えば慌ただしく動き回り、扉の奥へと消えていく。
この隙に姿を眩ますべきなのは分かっていたが、結局奴が戻ってくるまでの間、彼はその場から動く気になれなかった。そこに意味はないのだが。

「おまたせ~、はいこれがお兄さんの分」
「これは……」

見れば分かる。毛布だ。
それもかなり上質な。

「一番あったかいやつだからどうぞ」
「それを俺に渡してどうする。貴様が使えば良かろう」
「ふふー、いいよ気にしなくて。私の分はこっちにあるから」
「……」
「お兄さんってばやさしい」

二の句が継げずにいられるところを、ユーリは押し付けるようにして毛布を渡した。なぜか唐草模様である。
そして自分も毛布にくりまり、ソファに沈み込むようにして座る。

「あ~しあわせ……もふもふ」

……一切の敵意も警戒心もない態度が逆に怪しい。清々しいほど怪しすぎる。
いくら疑っても疑いすぎることはないが。
口の中で小さく舌打ちをする。外見からはほとんど分からないが、キャプテンから受けた傷はまだ癒えていない。
一定の休息が必要なのもまた事実。
数瞬のうちにそこまで思索したところで違和感に気付く。

「……おい」
「……すーー……」

妙に気配が薄くなったと思っていたら、寝ていた。
ここまで来るといっそ馬鹿らしくなってくる。
警戒を解かぬまま、言葉だけを投げかけた。

「寝るやつがあるか。殺されても文句は言えんのだぞ」
「すやぁ……」
「そんなに死に急ぐか」
「んん~……あとひとくち」
「………」

試しに腕の小刀を額に突きつける。起きない。
なにがしかの罠を張り巡らす気があるのなら、ここで反撃しないのはおかしい。ならば導き出される答えは。
その事実に毒気を抜かれ、虚武羅丸は構えを解かぬまま、渡された毛布をじっと見やった。


翌朝。

ユーリが目を覚ますと、きちんと畳まれた毛布がテーブルに置かれていた。
ひょこり頭を起こし、外から聞こえる小鳥のさえずりに紛れて呟く。

「……あー……おにーさんのなまえ、きいてなかったー……」
「虚武羅丸だ」
「へ?」

声がしたほうに視線を移すと、あるかなしかの風に吹かれて白いカーテンが揺れるばかり。
そして窓は開いている。

「……」

半眼のままぼんやりと、思考の海に浸りきる。

どこのモビルシチズンかな、あのひと。
また会えたら友達になってくれると嬉しいな。

それだけといえば、それだけの話。
彼女はへにゃりと笑うのでした。

2014年 4月25日