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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

人が歩けば波乱に当たる

天宮アークの国に、夜の帳が降りた頃。
燃え盛る城が黒い空に浮き上がった。
天守閣が崩れ落ち、梁の一部がむき出しになる。
明らかに落城しかけているこの城に、しかし敵の姿はたった一人だけだった。

「ええい敵はどこにいる!」
「見当たりません!この手口はおそらく……!」
「城落としの虚武羅丸……あんな忍が実在するというのか!」
「そうとしか考えようが!」
「あ!あれはなんだ!」

野武士のひとりがやおら屋根の上を指差す。
つられて他の者もそこに視線を集めると。

屋根の上に佇む影。
闇夜の三日月2つを背負う、蛇の形をした武者頑駄無の人影は、ひとしきり注目を集めたのちに声を発する。

「ヤアヤア!遠からん者は音にも聞け!近くばよって目にも見よ!我こそは、城落としの! 虚・武・羅・丸 なりぃ!!」

「おのれがコブラ丸かーーーー!!」

  がっきょん。

そして真横に蹴り飛ばされた。

ミもフタもない沈黙に包まれる一同。
燃えはぜる火の音がしばし辺りに響いたのち……

「貴様!なにをする!」

屋根から蹴り落とされていた虚武羅丸が、鎧内蔵のブースターで復帰してきた。
同じく屋根に陣取っている「なぜかふにゃふにゃした装甲しかないいかにも弱そうな謎の生物たぶん♀」は、拳など握りしめて俯きがちに怒りに震える。

「よくも……よくも……!」

それだけで彼の方は今までの経験から何かを察したらしく、

「――フン。この城の者か。生憎だがどう足掻いたところでこの地は騎馬王丸様の手に落ちる。貴様にできることなど……」

みなまで言わさず。彼女はバキゃっ!!と足下の屋根瓦を踏み割った。

「こんなしょーもない城の1コや2コどーでもいいっっ!!」

『なにいぃぃいいいいいっ!!?』

さすがにこれには野武士勢が絶叫した。
そのままげしげしと屋根瓦を踏み砕き始めた彼女に向かって、野武士その1があっ、と声をあげる。

「お主、その声は!出入りの商人だな!?」
「なにっ!?あのユーリか!?」

すると彼女、つまりユーリは待ってましたとばかりにきっ!と顔を上げ――ついでに粉々になった瓦を邪魔そうに足で押しやりながら――虚武羅丸を思いっきり指差す。

「ああそーだよ!変装してたけど確かに私だ!いいかコブラ丸とかいうそこの無差別テロ魔!話すから聞けっ!」


ことの始まりはしばらく前っ!
日本に住んでた私はいきなりこの世界にトリップしてきた!
あとついでに身体能力が飛躍的にアップしてたから山で動物生け捕りにしたり売ったり買ったり旅の商人になってみたり!
変装して種族を欺きながら順調に過ごしてたんだけどある日とある城下町!

「そこで何が起きたと思う!?」
「……」
「城が壊れた!」

虚武羅丸は一言も返事など返していないが、とにかく喋り倒し続ける。

「そんでな~……そんでなああ……!
次に立ち寄った城下町では町ごと水没、その次は瓦礫が飛んできてねぐらに突き刺さって大変だったしまた次は城が周りを巻き込む大爆発で商品がおじゃんだ!
そんなことがかれこれ8回も続いてんだぞ!しかも全部お前の仕業!
そんで今度は火攻めってか!火矢がこっちまで来て商品燃えたわ!馬鹿じゃねえの、馬鹿じゃねえの!!?」

ひとしきり絶叫し終われば、ぜえはあと肩で息をする。

「……なかなかすごい人生だな」
「それであの忍を恨んで……」

やっとのことで野武士達がコメントしていくが、反応する気力もなさそうだ。

「全く、何かと思えば……くだらん逆恨みか」
「うわ殴りてえ」

ユーリは純粋にそう思った。

「それで貴様はどうするつもりだ」
「どーするってぇ……?決まってる」

右足を一歩引いて重心を低く。両手は軽く空気を掴むような構えをとった。
本人曰く、トリップしてから身体能力がアップしたとのこと。その純然たる能力の上昇に頼った戦闘態勢だ。
言葉はなくともその意図は明確。

「フン……そんなに死に急ぎたいかッ!」

もとより律儀に構ってやる必要もないが、単身敵地に攻め入り、そして目撃者はことごとく消すのが虚武羅丸の美学。
鎧から三方手裏剣を放出し、まずは牽制。だが異様な反射神経で軽々と避けられる。

「ハァッ!」

ならばと一気に間合いをつめて、手持ちの翔転流ショーテルで斬り掛かる。

「っとぉ!」

こちらも難なくかわされたが、すかさず軌道を変えて二度三度と斬りつけ続ける。
相手がどんな奇妙な生き物だろうと、避けるからには斬撃が有効なはず。常に急所を狙う刃が当たれば殺せる。
よしんば防がれたとしても、こいつは防具もなにも持っていない。それで身体の一部は確実に潰せる!

「……なに!?」

だが驚愕したのは忍の方!

「とった!」

確かに防がれた。しかし手傷は負っていない。
高速で繰り出した刃を、なんと素手で掴んで止めていたのだ。
ならばと掌を引き斬ろうとするも――できない。
拳の中から刃を引き抜く力より、彼女の握力の方が強かった。

「ふざけたことを!」

こちらから翔転流を手放し、生まれた隙を利用して鎧の尻尾で打撃を加える。
今度は簡単に悲鳴を上げて打ち据えられた。

「いっ……てェなこの」

顔を歪めて立ち上がる。が、次の瞬間には犬歯を見せて笑みを浮かべていた。

  ピシッ。……ガタン

虚武羅丸の身体が少しだけ軽くなった。
……確認するまでもない。あの生き物は攻撃された瞬間を狙って、大蛇の鎧を一部もぎ取っていったのだ。
彼の佇まいから余裕が消える。

「なるほど……思っていたよりやるようだな」
「ぬかせやコブラ忍者。そのふざけた着ぐるみひっぺがして陳列棚に置いてやる」
「フッ………」

僅かに認めたような様子を見せて……すぐに殺意で自身の全てを塗りつぶす。
油断をしていて勝てる相手ではない。
もう一刀の翔転流を構え、同じように翔転流を構えてくる生物を見やる。

もはや余計な問答は無用。

「我が名は虚武羅丸!騎馬王丸様の懐刀、天宮最強の忍なり!」
「私はユーリ、通りすがりの商人だ!」

「「参る!!」」


決着がついたのは夜明け前。

「く……ッ!!」

身体中に傷を作り、先に膝をついたのはユーリの方だった。奪った翔転流を地面に突き刺し、辛うじて支えにする。

「……チッ」

それを見ていた虚武羅丸も、集中が途切れかけてふらついた。無理な攻撃をくらって傷だらけになっている。
大蛇の鎧は原型を留めているものの、回復にかなり時間がかかるだろう。

激しい戦いが終わった後、城は結局二人の攻撃の余波をくらって壊滅していた。
石垣と大まかな骨組みだけが残った静かな焼け跡。暁に染まっていく地平の中で、人と頑駄無は視線を交わす。

「これは……私の負け、ってことでいいのかな」
「そうなるな」
「次は負けない自身があるんだけど……でも、次は」
「ああ」

2つの意味で肯定した。次はユーリが勝つということ、しかし次はないということ。

「ふふっ……なかなか、楽しかったよ……」

ユーリの瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。
ある程度興奮が収まったので、ようやく痛みや恐怖を感じるられるようになったのだ。
ところで見学していた野武士達はどうなったのかというと、両者が投げまくった瓦礫や爆弾、武器のたぐいが間違ってポンポン当たっていたためそこらに力尽きている。死屍累々。
止めを刺そうと歩み寄っていた虚武羅丸は、しかし反射的に後ずさった。

「な……なんだこれは」
「え?なに?」

ユーリの周りに光の粒子が漂っている。

「ありゃー……そうかもっかいトリップがあるのか」

彼女は呑気に頬をかいた。
最初に天宮に来たときもこんな感じだったのか、驚いた様子もない。ただ膝をついている。

「おい、これはどういう」
「スキありぃいっ!!」

最後の力を振り絞り、しゃがんだ状態から伸び上がるようにして拳を突き出す!狙いは敵の顎………!!

  ぐにゃり。

「……ってうぇあ!!?」

景色が歪んだ。
繰り出したグーパンチの勢いは止まらないので、とりあえずそのままにしていると!

  がごっ!

「うわっ!!?」
「いってえええええ!!?」

ひたすらカタい何かを殴った。

「な……なんですかこれ……」

ひとまず冷静を取り戻そうと努力して、ユーリは自分が殴ってしまった何かの正体を突き詰めるべく、2~3度目をこする。ついでに涙も拭っておく。

「…………あ…………」

「いたたた……。やあ」

ハロがあった。
ハロの下から長い人間が生えていた。
八頭身、ハロ。

「アイヤーーー!次元転送装置はまだ作動してないのにネ!」
「っつーか、血まみれじゃねーか。フツーにやばくね、これ?」

「……………………」

なんだここは。
元から出血多量だが、更に血が足りなくなるような目眩を感じて……。

「──きゅう。」

ぶっちゃけ限界こえてたのであっさりその場にぶっ倒れた。

「出血がひどいな……ただちに医療班を!」
「見てるだけで痛そうネ!とりあえずそうするのが正解ヨ!」

ばたばたと忙しない足音を顔面で直接聞きながら、彼女は心のどこかでなぜか虚武羅丸のことを考えたりしていた。
過大評価でもなんでもなく、大抵の頑駄無なら余裕でぶっ倒せる自信があった。
だからこそ深く考えずにケンカを売りにいったのだが……その結果がこれである。
まぁ、こちらが異世界に行ってしまったからにはもう出会うこともないだろう。せいぜい元気に暮らすといーさ。

数ヶ月後、ブランベースに攻め入る忍のことなどまるで予想もできぬまま、ユーリはそんな風に思うのだった。

2014年 1月28日