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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

合縁奇縁

昔々あるところに、ひとりの少女がおりました。
少女の名前はユーリと言って、それはそれはマイペースな人間だったそうな。

人間、だった。

……過去形。

ここは深い森の中。山を下りれば人里はあるものの、いかにも世捨て人が隠れ住んでそうな雰囲気が漂っている。
そんな所の打ち捨てられた小屋を利用して生活している女性の頑駄無が一人。
元々は人間で、しかも異世界から来たなどという驚きの珍事件経験者だが、生来の細かいことを気にしない性格が幸をなしたか、あっという間に適応して悠々自適なスローライフを送っていた。
そしてある日。いつものように山をふらふら散策していると、こんなことが起こった。

柔らかな木漏れ日、涼やかな風が草木をわける。枯れ葉を踏む音が耳に楽しく、足下には忍者が埋まっている。

「………」

「………」

足下には忍者が埋まっている。(二度言った)

ぱちぱち、と瞬き……するのは瞳周辺の構造上不可能なので、黒目そのものの形を変えて瞬きを表現する。慣れるまで結構コツがいるなどと言う話はさておき。

「……なんで落とし穴にモビルスーツらしき人物が引っかかってんの?今北産業」
「貴様の仕業か」

害獣避けの落とし穴で忍者が捕れました。

なぜに。


素人ならではのぶっとび加減で、突拍子もない所に落とし穴を掘ったのは確かにユーリが悪いと言えよう。
だからってそれに引っかかる忍者ってとなんなのとは考えないことにしたらしい。せめてもの情けというやつであった。

「あー、ごめんよ見知らぬ人、底に鉄ヤリ仕掛けてたばっかりに」
「言うな」

蛇を模した鎧の一部に損傷を受け、さらに足を怪我した虚武羅丸。城落としの異名はどこへやらという有様であるが、何事にもまぐれというものは存在する。
落とし穴の底には近くの戦場で拾った鉄ヤリ。そりゃあケガもするってもんである。
ここで会ったのも何かの縁と言うことで、ユーリは自分の住処――というよりは掘建て小屋――へと招き入れることにしたようだ。

「しかし、こんなところに人が住んでいたとはな」
「『人』……?ああうん、そこに小屋があったから」

若干引っかかる部分は気にしない。
ユーリはしばらく荷物をあさっていたが、薬草のようなものを取り出した。

「……っと、ほら薬。適量を傷口に塗ってしばらくすれば治るよ。たぶん」
「たぶんとは何だ。信用出来るか」
「まあまあ、一応医者などやってるから信用してくれ。でもしか医者だけど」
「なんだそれは」
「医者に『でも』なろうかなあ一通りのことはやってみようとしたけどどうにもしっくりこないからあとはもう医者になる『しか』ないなあ、というやつ」
「廃業しろ」

きっぱり言い切られた。
納得いかないのでぶつぶつとこぼす。

「失礼な、これでもご近所じゃそこそこ評判はいいんだよ。……ひも医者と名乗った方がよかったかな」
「ひも医者……?」

やぶ医者ではなく、ひも医者。
怪訝な顔をする虚武羅丸に対し、自分の首を見えない紐で絞めるような仕草をやってみせ、

「かかると必ず死ぬ」

ひもだけに。

「………」
「おい無言で席を立つな」
「さらばだ」
「喋ればいいってもんじゃないぞ座れ、あとそっちは玄関じゃなくて窓」
「何処から出入りしようと俺の勝手だろう、薬の代金でも払ってほしいのか」
「誤解したまま行くなとゆーに。さっきのは軽い冗談だからさ」

なおもイヤそうな様子で出て行こうとする虚武羅丸を引き止めにかかる。
なんとか話を繋げようと、あっけらかんとした口調でひとつ手を打つ。力加減を間違えたのか、思ったより大きな音が出た。

「あそうだ、代金はいらない。その代わりに教えてほしい情報があるんだけど」
「……聞くだけは聞いてやろう」
「普通……いや、実際にあったという話じゃなくても構わない。
頑駄無以外のものが頑駄無になるってことが、有り得るのかどうか。それを知りたい」

虚武羅丸をひたと見据えて本題を切り出す。
ユーリとしてはあちらもこちらも一長一短、戻れても戻れなくてもどっちでもいいくらいの考え方だが、いつここが戦場になるとも分からない。
この時代では知識が命。使えそうな情報は多い方がいいのだ。


聞いてみたはいいものの、初対面の人間――便宜上そう言うしかない――に全てを喋ることは出来ない。
質問はその一点のみに留めておいた。

「……貴様がそうだとでも?」
「残念ながら私にはその質問に答える義理も人情もないね。それで、心当たりはあるのかな」

さらりとはぐらかすものの、残念ながら虚武羅丸ですら、そんなお伽噺は聞いたことがないようで。
そうと知ると、彼女は残念とも思わぬ様子でふうんとだけ言った。

「ま、どっちでもいいって思ったのは私だし」
「…………」
「……なんだよそのマナザシは」

どうもこうも、質問が受け付けられないというので目で詰問しているだけである。
並みの神経の持ち主なら、冷や汗を垂らして後ずさること請け合い。射殺さんばかりの視線だが、生憎ユーリの神経は登山ロープ並みの強度を誇る。

「はいこれでお終い、お互い用は済んだはずだろ、見たとこ傷もほっときゃ治る具合だし。帰った帰った、巣に戻れ」
「ほう……この俺を相手にそこまでほざくか。よほど命がいらんらしいな」
「はいはい、お帰りはあちらです」

人を食ったような笑みを浮かべて……といっても、頑駄無になってしまったので微妙な表情は再現できない。そんな感じの雰囲気で扉を掌で指し示す。

「――フン」

それでもこれ以上の長居は無用と判断したか、はたまた興味がなくなったのか、彼は身を翻して小屋を出た。

窓から。

「おいこら!そっちじゃなくて玄関から出ろ!」

一度行動に移せば後は早い。木立の間を走り抜けつつ、食えない女の荒げた声に、少しばかり溜飲が下がるのを感じた虚武羅丸であった。

残されたユーリは。

「……全く……人の話を聞かないな」

ぶつぶつと独りごちるものの、不思議と機嫌は悪くない。
別にあの蛇っぽい忍者がまた来ようが来まいがどっちでもいい。どちらでもいいが……。

「……次があれば」

もう少しだけ、尋ねてみてもいいかもしれない。
異なる世界はあるのか。
時代を超えることはできるのか。
『人間』について。
『頑駄無』という概念について。
そのいずれかを。

――んー、でも性懲りもなく来るとも限らないし、次こそさっくり殺られるかもしれないし。

それからほどなくして、蛇っぽい忍者こと虚武羅丸は、ごく稀にこの掘建て小屋を訪れるようになるのだが。
そんなことはまだ知らぬまま、彼女は思考を転がした。

2014年 4月30日