1up piercing Many Wide short Blink Big ball Ctrl Loading... BB2021 Click to start Ver 0.0.0.0 Please click to go to the next page. Game over Please click to try again Failed no item Stage 1/1 0% / 0% Stock 0
設定
1倍
※iOS非対応
ON
ON
ON
1倍
1倍

カーソルもしくはタッチしている位置をボールが追いかけます。

ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

夏だ!海だ!サメだ!!!

海辺の町、ボルンハーフェン。
宿のバルコニーにある欄干に手をかけ、苛ついた様子で水平線を睨むフェルパーがいた。
クロードである。
喧騒とは遠く離れた場所にいながら、しかしクロードの胸中は穏やかでない。
彼の真上で燦々と輝く太陽は、すなわち今が指定しておいた集合時間であることを示していた。
潮風になびく短髪を乱暴になでつけ、ひとりごちる。

「あいつらはまだか」
「まだでしょうねえ。遅れるとの言伝を預かってますし」

一瞬刀に伸びかけた手を欄干に戻す。
気配もなく背後に出現した堕天使については言及しない。いつものことだ。
代わりにため息をひとつ。

「……今度は何のお遊びだ?」
「リューカさんが世にも珍しい左巻きの貝を探しているんです。それに女性陣が全員のっかった形ですね。この世界の生物学会に革新の夜明けをもたらすそうですよ」
「意味が分からん……!!」

脱力して頭を欄干にぶつける。
そんなクロードはさて置き、堕天使シモンは青い瞳を遠くに見える砂浜へ向けた。

砂浜にて。

「貝殻貝殻……あーくそ!!どれだー!!!」
「ね~ね~、フジツボってどうやって生きてるの~?」
「すごくあついヽ(^▽^)ノ」
「いっそ宝珠に左巻き貝の発見を願うか……?」

常識人不在のパーティは混沌の形相を表していた。
ライは作業のストレスに耐え切れずヘドバンを始め、カズネはフジツボとお喋りし、音無は鞄を日傘代わりにしている。
さらにリューカが旅の目的を変更しようかと真剣に考え始めたところで…

「なぁリューカ。あれなんだ?」

最初に気づいたのはライである。動物的なカンの良さが、今日も警鐘を鳴らしていた。

「なにって、ただのサメじゃん」

そう、水平線の向こうから、悠々と近づく三角のヒレ。
魔物でもなんでもない、ただの水棲動物である。

「ん?」

がぶぁ。
リューカが鮫に喰われた。

「「「……」」」

絞め殺されそうな沈黙の中、びちびちと尾を振る一匹のサメが、つぶらな瞳をきらめかせていた。

「……ってなにやってんだお前はああああ!!?」
「さ、サンダー!」

慌てて音無が低級の雷魔法を唱える。サメは攻撃をまともにくらい、びくんと大きく震えたきり動かなくなった。
そしてライがサメの口をこじ開けて、中のリューカを引きずり出す。

「ぬぐぐ…っ!おいマジで生きてっか!?どっか食い千切られてねーよな!?」
「げほげほ、ぺっぺっ、大丈夫、五体満足っ」
「よし!!」

大きく頷くライをよそに、音無が怯えた様子で波打ち際から後ずさりしていた。

「さささささ!!」
「もうサンダーはやめてね」

「サメー!!!」

その絶叫に、痺れた手の平をぐーぱーしていたリューカが後ろを振り返る。
海からはいくつもの三角形が泳いできていた。
その数なんと……

「ひぃふぅみぃ~……13匹もいるね~」
「数えてる場合かよ!!おいどーすんだこれ!」
「全員波打ち際から下がれ!」

指示を出したのはリューカである。そのまま海に向かって魔法を放つ。

「ウィンディー!」

水辺の敵に効果的な、風系の古代魔法。
巨大な竜巻がサメを飲み込み、ずたずたに切り裂きながら上空へと巻き上げていく。

これで一件落着かと思いきや。

「……増えてね?」

ライにしては珍しく、ぼそりと懸念の言葉を呟く。
水平線の彼方から、ぞろぞろと三角のひれが群れをなしてやってきていた。

「ひぃふぅみぃ~……あ~うごかないでよ~」
「皆さん丸腰でしょう。一度撤退してはいかがです?」
「それがいいね」

いきなり現れたシモンの言葉に、リューカはあっさり頷いた。

引き裂かれた肉片が降り注ぐ海。
同胞の血を求めてか、はたまた別の理由からか、集い来る数多のサメの群れ。
ボルンハーフェンに混乱の波が打ち寄せていた。

in宿。
宿の従業員ならびに他の客の姿はなく、既に避難済みとなっていた。
言わば貸し切り状態である。
食事用の大きなテーブルをべしっと叩き、リューカは声高に宣言した。

「これより作戦会議を始めるっ」
「どんどんぱふぱふー!」

布鎧に身を包んだ音無が、景気づけに人魚のハープをかきならす。ちなみに彼女の得意武器は銃火器だ。
そこにクロードが鉢巻を巻き直しながら口を開く。

「鮫の到着まで猶予はあるか」
「あの速度では5~6分ほどかかるでしょう」

シモンは指先で黒水晶のペンダントをなでている。

「どうしてサメさんたちは~、いっぱい集まってくるんだろうね~」

机にぐでーっとのびながら、カズネがもっともな疑問をあげる。
それを聞いて、リューカが猫耳を軽く動かした。そしてふと思いついたように、

「……この世界に、サメの魔物はいたっけ?」
「いないな。魚の魔物ならまだしも、鮫の魔物など聞いたこともない」
「たった今生まれた可能性もある」
「奴らがそうだと?」

クロードがヤクザじみた目つきでメンチを切る。無関係の音無がちょっと怯えてハープをしまう。
リューカは涼しい顔を崩さず、仕草だけは深刻そうにぐっと握り拳をかためる。

「ひょっとしたら。この世界に……”ささくれシャーク”の悪夢が蘇るのかもしれない」
「かもしれないって、なンだよその……ささくれ?」
「剣士の山道で何度死にそうになったことか!」
「おーい」
「奴らはいずれ山に登る!」
「聞いてっかー?」
「滝付近に気を付けろ、悪夢はそこに潜んでいる……!」
「で、どー倒す?」
「ある程度まとめてサメを倒し、血肉に群がってきたところを一網打尽」

聞いてんじゃねーか。
ライを始め、パーティの心がひとつになったところで、反撃の火ぶたが切って落とされた。

砂浜に戻ってきた一行が見たのは、今にも押し寄せんとするサメの群れと、人っ子一人いない海岸だった。
街の住人が避難しているのは良いこととして、武装した人影が見当たらないのは、この辺に居る冒険者グループが自分達だけという事実を示す。
その様子を目の当たりにし、ライはバハムーン特有の翼をせわしなくはためかせた。

「ったく!こんな時になにやってんだ他の奴ら!」
「交流戦に必要な大天使の羽を探しているだろうな」
「こんな時になにやってんだあたしら!?」
「決まっている」

クロードは沈痛な面持ちでため息を吐き出す。
刀を構え、真・心眼の呪文を唱えた。

「鮫狩りだ」

鮫狩りの形相は混沌を極めた。
なにせサメは次から次へと沸いてくるのだ。
いくら魔法で葬ろうと槍で貫こうと刀の嵐を降らせようとキリがない。

「オラ次来いやぁ!!」

そんな中、ライの雄たけびに吸い込まれるように、飛んできたトゲが頬を掠めた。

「……トゲ?」

呟いたのは誰の声か。
棘の発射された方角を見やると、やけに凶暴なギザギザを全身にまとったサメの魔物が現れた。

「わぁ~。あれがささくれシャークさんか~」
「ンな悠長に感心してる場合かよ!?おいリューカ!あれどーする!?」
「ライに任せた!他の皆はサメの撃破を!」

いきなり出現したささくれシャークには目もくれず、近場のサメを切り倒しながら、リューカはライに命令を下す。
突撃命令を貰ったライの反応は早い。
ひときわ大きく翼を揺さぶり、近場のサメを踏み台にしつつ、魔物へと一直線に進んでいく。
さながら海上を走っているかのような機敏な移動。しかしサメを足場にしている以上、どうしても動きを読まれやすい。
そこを狙ってささくれシャークは攻撃を仕掛ける。

『シャアアアア!!』

自分自身を弾丸とした、”突撃”と呼ばれる攻撃スキル。
成功すれば3回分の攻撃ダメージが通る技だが…

「おらァ!!!」

 バギョーン!!

真っ向から槍で叩き落した。
息絶えた魔物を足場にしつつ、仁王立ちになったライが勝鬨をあげる。

「タイマンであたしに勝てる奴ぁいねーんだよ!!」

 がつん。

 ばしゃん。

背後から飛んできたコバンザメに吹き飛ばされ、バハムーンの少女は海へと落ちた。

「……本当に仕方のない人ですね。まぁ後で助けてあげましょう」

シモンの愚痴は海風に乗り、遥か彼方に運ばれる。
それはさておき、海岸では。

「まずい、向こうの磯海岸にも鮫が湧き出した!」
「マジかクロやん!」「でも数はこっちほどじゃないねクロやん!」「クロやん目がいい~」「多少は戦力の分散もするべきでしょうねクロやんさん」
「うるさい一度に喋るな!!そしてその呼び方をやめろ!」
「じゃあ音無、磯海岸のサメを殲滅してきて」
「話を聞け!!」

尻尾の毛を残らず逆立て、クロードはリューカの脳天に拳骨を落とす。

「頭が殴られたように痛い!?」
「殴ったんだ!!」

いよいよ混乱に火が付いたところで、遠くから聞こえる断末魔に気が付いた。

「がぼげぼぐば!!」
「ライだ~、やっほ~」

カズネが”快足の踊り”のステップを踏みつつ呑気に手を振る。

「おー、溺れてる溺れてる。…ちっさいサメに噛みつかれてるね」
「噛み返してますよ、ほら。あの様子だとしばらく放っておいても平気そうです」
「そうだね、ささくれシャークが群れの頭みたいだったし、もう援軍もない。そろそろまとめて叩こうか」

言うが早いか、リューカはウィンディーの呪文を口の中で唱える。魔法の準備が整ったところで、

「クロやん、群れの真ん中に天剣絶刀を」
「……了解した」

苦虫を噛み潰したような顔で、幻影の刀を幾多も生み出す。大方あだ名に不満があるのだろう。今更だが。
サメ達の頭上に浮かばせたその刀身に、ふっと竜巻の魔法を重ねれば。

阿鼻叫喚、剣の嵐血肉の竜巻が出来上がったところで、鮫は一網打尽となった。

「ぜはー…がぼっ…しぬかとおもっ…」
「はいはい、泳げないのにはしゃぐからですよ。…ところで音無さんはどうなりました?」
「音無なら大丈夫」

MP回復にジュースをすすりつつ、リューカが磯海岸の方角を指さす。
岩場を見ると、そこには。
ちょうど最後のサメの突進をかわし、ハンドガンの弾をお見舞いするディアボロスの姿があった。

「1対多数の乱戦は、音無が一番得意だからね」

こちらの視線に気が付いて、音無がぶんぶか手を振った。

「乱闘の後は宴会だー!!サメ食うぞー!!」
「その無駄にうるさい絶叫をやめろ…!」
「なんだよクロやんつれねーな!」
「つれないねクロやん!!!!┏┗(^o^)┛┓」
「音無も乗るな!」
「調理の手が足りません、手伝ってくださいクロやんさん」
「やめろ!」

などと言いつつ、一度包丁を握ると手際よくサメをバラバラにしていく。

「クロやん器用貧乏っぽい~」
「……やめろ」

カズネにトドメをさされつつ、刺身や揚げ物が次々出来上がる。
何故かヒレ酒なども飛び出したが、妙なところで生真面目なライが没収した。

「昆布うめえ!!」
「おい洗ったのかそれは」
「サメの竜田揚げおいしい(‘ω’)三( ε: )三(.ω.)三( :3 )三(‘ω’)」
「こ……これは……!見つけた、伝説の左巻き貝!」
「あれ~?」

乱痴気騒ぎに興じる集団の中、ふとカズネが顔を上げる。
シモンがいないのだ。
それを指摘しようかとしばし悩み…

「干したソラマメを海水で戻すとんまいぞ!!」
「俺は衛生面の話をしているんだ!!」
「お刺身おいしい~~~ԅ( ˘ω˘ ԅ)」
「ヤドカリさんよ、その左巻き貝を引き渡してもらおうか、代わりにサメの切り身との物々交換を申し込む──!」

やいのやいの。

「……おいしいね~」

物事を深く考えない。
それは人生を快適に過ごす上での、カズネのこだわりのようなものであった。

海岸から少し離れた場所にある、小さな小島。
夕日の差し込む洞窟にて。

「あれですね」

誰に言うでもなく呟いて、目の前の空間異常を観察する。
黒い亀裂のようなものから、ここではない山道の光景が望んで見えた。
彼が歩みを進めるたびに、足元の水が音を立て、夕日の光が不規則に揺らめく。

「異世界へと通じる扉……魔物はここを通ってきたのでしょうか」

洞窟の壁は声を不気味に反響させて、得体のしれない雰囲気を残す。

「一部の方は喜ぶでしょうね。カルテさんは勿論、リューカさんもこの向こうから来たのでしょうし」

湿気が羽にまとわりつく。彼は翼が重くなる感覚が好きではなかった。

「しかしまあ……私は性格が悪いので」

振り下ろした大鎌の一撃が、文字通り空間を切り裂いた。
空間の裂け目が蜃気楼のようにゆらめき、完全に掻き消えたその後には……

1枚の黒い羽根だけが残った。

「あ~シモンだ~。久しぶり~」
「あのカズネさん、5分前に会話しましたよね私達」
「おう帰ったかシモン!これ食え!!」
「ちょっと、なんですかライさんそのむぐぐ!!」
「諦めろ。俺からはそれしか言えん」
「リューカさんそのヤドカリどしたの?」
「こいつが串焼きを追加で要求してきた」

様々な料理が宙を舞い、水平線の彼方から夕陽の光が人々を照らす。
異世界から魔物がやって来ようと、魔女や堕天使女教師や古の生徒が暗躍しようと。

……とりあえず、世界はおおむね平和なのだ。

2016年 6月28日