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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

ドアを開けると

ドアを開けると異世界だった。

より詳しい表現をするならば、やや手狭な民家の一室。
生活感は感じられるが、置いてある家具には見たことのないものが混ざっている。
例えば空間に浮かび上がる地図らしきものや、ダイニングテーブルを占領する銃火器。
さて、その部屋には人影があった。
肌は黄緑で、背が高い。見慣れない形状の衣服から、人間らしからぬ骨格がはっきりと確認できる。
その生き物はアーモンドようにつり上がった瞳をかっ開く。
黒い虹彩に侵入者の姿が映った。

「誰だ!?」
「私だ。」

と脊髄反射で応えてから、少女は相手が何を言っているのか分からないことに気が付いた。

「……落ち着いて確認しよっか。ここはどこ?あんたは誰?私は?私だね。うん問題なし」
「勝手に納得しないでくれるかお嬢さん」

部屋の人影――サラリアンの男は、突如現れた謎の少女をじとっとした目で睨みつけた。

「おっかしいな、さっきまで家にいたはずなのに……」
「君もここの住人か?ならこいつに見覚えがあるだろう」

呑気に考察する彼女に向かって、サラリアンがデータパッドを突きつける。
そこには別のサラリアンが映されているのだが、とことん状況についていけない少女は……ひとまず妥当な行動に出た。
しゅたっ。
バックステップで大きく飛びのき、近くの椅子に身を隠す。

「ち、近づくなー!というかさっきからスルーしてたけどあんた一体なに!?」
「連合の一員だ。詳しくは言えない。知らないかもしれないがこいつは犯罪者でこの惑星に潜伏していたんだ。我々は彼を追って……」
「やめれー!宇宙語で言われても理解できない!いやだー!キャトられるのはー!!」

縮こまってぎゃーすか喚く人間の少女に、言葉が通じていないものと判断を下した。
サラリアンは自前の荷物ケースをあさり始める。

「ふむ。翻訳機を持っていないのか?確か予備がこっちにあったな」
「な、なに!私をどうするつもり!?分かった、怪しげな実験するつもりでしょ!月刊ムーみたいに!月刊ムーみたいに!!」
「ちょっと黙ってくれ」

決死の抵抗を見せる彼女だったが、あっさり捕まるとさっくり翻訳機を取り付けられた。

「がめおべら!!」
「……なんだって?」
「この世の終わりって意味!!あれ?」

やっと話が通じるようになった――かどうかは怪しいものの、基本的な意思疎通は可能になった。
サラリアンは室内をぐるりと見渡して、ここに2人しかいないことを確かめる。
――扉にロックはかけておいた。仮に開けられたとしても、音もなく侵入することはまず不可能。
となると彼女は最初から部屋にいたことになる。
思考を一回転させたところで、改めてデータパッドを突きつけた。

「繰り返しになるが尋ねよう。私はこの犯罪者を追っている。そしてここは彼の隠れ家だ。こいつに見覚えがあるな?」


それに対する彼女の反応は単純だった。

「誰そいつ」
「知らないのか?本当に?」
「うんうん。ウチュージンに知り合いなんていないし」

古い言い回しで否定する彼女に、サラリアンは手元のオムニツールを操作しながら受け応えた。

「なるほど、嘘ではないようだな」
「分かってくれた?だいたい私、宇宙人に会うのも初めてなのに犯罪者なんて知るワケない……ねえなんでそっち見ながら納得したの?」
「ではなぜここにいる?」
「気が付いたらここに立ってたの。……ところでそれ嘘発見器ってやつでしょ?」
「本当のようだ」
「無視かい」

体温、心音、呼吸その他諸々異常なし。翻訳機に仕掛けられた嘘発見器はそう語った。
オムニツールをひとまず閉じる。紛れ込んだ一般市民をどうしたものかと、サラリアンは首をひねった。

「まあいい。ほら、出口はあっちだ。暗くならないうちに帰るんだぞ」
「その方法が分かんないから苦労してるんだけど。ところで私2016年の日本から来たんだけどこれって俗にいうタイムスリップか異世界トリップのどっちだと思う?」
「……重症だな……」
「本気で憐れんだ目ぇやめてもらえる!?」

種族が違えど、あからさまな心の機微は伝わるようだ。
嬉しくもない事実を噛みしめて、少女は帰還方法を模索する。

「さらっと来れたってことは……同じくさらっと帰れるかも?ドアを開けると異世界だった……つまりドアを開けると現世に戻れる的な?」
「分かった分かった。悩むなら外でやってくれ。ここは犯罪者の隠れ家なんだ。危険だぞ」
「ドアを開けると……せえい!!」

勘とテンションに身を任せ、少女は見えない引き戸をスパァン!!と開ける動作を繰り出す。
たったそれだけで、彼女の妄想は世界を少しだけ書き換えた。
すなわち――

「は?消えた?まさか!」

サラリアンが再びオムニツールを展開する。
ターゲットロスト。
翻訳機に仕込んでおいた嘘発見器は、探るべき対象の消失を知らせていた。


時空を渡って現れた少女が、時空をまたいで再び消えた。
果たして彼女の行き先は、つい先程までいた懐かしの我が家――

「また君か!」
「またあんたかい!」

――ではなかった。

「気合が足りなかったかも?もっとこう、ガツンって感じで……」

元の場所に戻って来てしまった。
相手の反応から察するに、あまり時間は経ってなさそうなのが唯一の救いか。
少女は難しい顔をして考え込む。
サラリアンも同じくらい、否、それ以上に難しい顔で思索の海に沈んでいた。

「バイオティック能力を使った痕跡はない。本当に時間を越えているのか?目の前で起こったことを否定しきれるだけの材料もない。状況証拠だけで肯定の判断を下すのも危険だが今はそうも言ってられないな。よし、頼みを聞いてくれ」
「この流れで私に頼み事します!?」
「その力で彼の居場所を探るんだ!」
「めっちゃゴーイングマイウェイだね!?尊敬するよ!?」

犯罪者を探せと言われても、彼女はただ帰宅を望む一般市民だ。
再び『ドアを開け』たとしても、何処へ飛ばされるか分からない。
あと犯罪者とか怖いし。普通に考えて嫌である。

「あのね。私はこれから録画しといた番組を見るっていう大事な用があるからさっさと帰りたいの。お分かり?」
「報酬ははずむぞ。1000クレジットだ」
「ふ……ふーん?ちなみにそれって円……ドルの方が有名かな。ドルで換算したらいくら?」

金の話をにおわせた途端、目に見えて態度が変化した。非常に分かりやすい。

「ドル?地球の単位か。1ドルはほぼ1クレジットと同程度の――」
「さあ行かなきゃ!天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!悪を探せと私を呼ぶ!!」

少女は金の亡者であった。

「そうか!さっきも見せたが探すのは彼だ!このデータパッドは貸すからなんとか居場所を特定してくれ!」
「はいはいこの宇宙人ね!もう私に任せといて!メアリー・セレスト号に乗った気分でどーんと構えてりゃいいから!!」
「…?とにかく頼んだぞ!」

ちなみにメアリー・セレスト号とは、乗員全員が謎の失踪を遂げた船である。

「れっつらごーー!」

何もない空間をドアに見立てて、手をかける。
そのまま威勢よく開け放ち、少女は時間の彼方に旅立った。


宇宙犯罪者――その異星人もサラリアンなのだが、彼女にそんな知識はなかった――を探すべく、少女は時間と空間をくぐった。
手ごたえはあった。
鼻腔をくすぐる外気の匂い。頭に照り付ける強い日差し。
間違いない、ここに目的の奴がいる!

「とはいかないのが人生だよね。ここは……なにこれ、水たまり?」

足元の泥水をぱちゃぱちゃ蹴りつつ、ぐるりとあたりを見まわした。
砂漠だ。
写真や映像でしか見たことがないが、ゴビ砂漠のような砂の世界が広がっている。
宇宙人どころか鼠一匹、草木の一本も見当たらない。
はて、なぜこんなところに水たまりがあるのか。

「うーん?」

当初の目的は忘れていないが、目先の好奇心が働いた。
わき水だろうか。手で泥水をすくってみる。

「あれ?だんだん指がぬるぬるして………強酸だこれー!!?」

『ぎしゃおおおおおおん!!』

彼女の絶叫につられたが如く、砂地を割って巨大な生物が飛び出した!
ミミズのようにうねる体躯、しかしその大きさと凶暴さはけた違い!
少女は確信した。こいつがあの伝説の……!

「モンゴリアンデスワーム!!」

『ぎるああああ!!』

ちなみにモンゴリアンデスワームとは、ゴビ砂漠の地下にいるとされるUMAである。これはスレッシャーモウだ。
うるさい獲物を喰ってやろうと、モウが顔面から突っ込んでくる!
彼女は後ろ手でドアを開け、倒れ込むように扉をくぐった。

次の世界は、雨の街。

「ぎゃふっ!?」

ずべしゃあっ!などという効果音をオマケにつけて、少女は路面にずっこけた。
全身を叩く強い雨。口に広がる水の味。

「ぺっぺっ!うぇ口に入った!」

固い歩道のど真ん中で、2~3回転がりのたうち回ってから起き上がる。
不幸中の幸いだろう、身体についた酸の液はすっかり雨に流された。

「ぜえ……はあ……」
「『この者』は驚いた。あなたは人間か?」
「?」

やっとの思いで立ち上がると、今度はくぐもった音声で問いかけられる。
何事かと声の正体を顧みると。
この激しい雨の中、傘もささずに佇む謎のシルエット。

「………………か」
「か?」
「火星人……!?」

――そう。
世間にグレイ型宇宙人のイメージが浸透する前は、このタコ型火星人が宇宙人の代表だった!
そして今!モンゴリアンデスワームに引き続き、私が伝説の目撃者となる!
雨の滴を全身で浴びつつ、少女はそんな感じの興奮と戦慄に打ち震えた。
赤っぽい体に大きな頭、多数の触手、そしてなによりタコっぽいフォルム!

間違いない!火星人だ!!

「訂正してもらおうか。『この者』はれっきとしたハナーだ」
「あっハイすみません。もう行くんで。しつれーしました~……」

いきなり逆鱗に触れてしまった。
少女は知る由もなかったが、ハナーは不正確な表現を嫌うのだ。
この場にも標的はいないようだし、とっとと先へ進むのが吉だろう。
彼女は再びドアを開けた。


ドアからドアへ、世界から世界へ。
片っ端から狙いをつけて、勘を頼りに探し回る。
その旅路は過酷を極めた。
ある時はとんでもない過去の銀河へ、

「よーしここが当たりのはず!」
「貴様、何処から湧いて出た!ここをプロセアン帝国中枢と知っての狼藉か!?」
「外れだー!!」

またある時はクローガンに取り囲まれ、

「エイリアンだ!!殺せ!!!」
「ぷるぷる、わたしわるいニンゲンじゃないよ」

コレクター船に迷い込んだり、

「わぁハチの巣みたい」
『クァアアアア!!』
「ゾンビだーっ!?」

シーカースワームから逃げ惑う人々に混じったり、

≪ヴヴヴヴヴヴ…!!≫

「ぎゃああああ!!」
「ひえええええ!!」
「助けてーー!」
「だんだん未来に希望を持てなくなってきたー!!」

開ける、開ける、開ける――。
走って転んで跳んで回って追いかけられ。
いよいよ時間の感覚も怪しくなってきたとき、彼女はついに。

「……」

標的を見つけた。

…………。

世界を渡る。
目に飛び込んできたのは未来の設計で作られた民家。
今は犯罪者の隠れ家であり、連合のサラリアンが操作中の場所だ。

「ただいまー。ヤツの居場所が分かったよー」
「なに、本当か!?嘘だろう!?」
「期待してなかったの!?」

いきなりのご挨拶にツッコミを入れたが、ひとまず気を取り直して。

「ああすまない、まさか本当に見つかるとは、とにかく案内してくれ。どこだ?この惑星内にいるんだろう」
「こっち」

相変わらず落ち着きのないサラリアンを目的地へと誘導する。
目指す場所は、隠れ家から少し離れた林の中。


目的のサラリアンは死体で見つかった。

林の中の、少し開けた場所だった。
遠くからは川のせせらぎがかすかに聞こえ、頭上を覆う広葉樹からは淡い木漏れ日がきらきらと差し込み、足元にはあまり野草も生い茂っておらず歩きやすい。
こんな自然で朝を過ごせば、さぞ気持ちがいいだろうと、そう思わせてくれるような天然の広場だ。

首をねじ切られて死んでいた。

「私が見つけた時には、こうなってた」
「遅かったか。敵の多い奴だったからな。この状態だと死後2日目というところか」

彼はさほど驚いてもいない様子で、死体をひっくり返したりと確認作業を行っている。
少女はあまりそちらの方向を見ないようにしながら、腕を組んで推理を始めた。

「問題は誰が殺したかってことだよね。えーとこの場合考えられるのは……」
「おおかた何処かの暗殺者だろう。考えるだけ無駄だぞ」
「うそお」

推理パート終了。
後ろで「えっおしまい?これだけで?」などとわななく少女を無視して、サラリアンはオムニツールを操作する。

「報告書も書かなくては。彼女の協力は省いた方がいいな、薬物の乱用を疑われる」
「ねえ死体が死んでるのに!?ここまで来て何の推理もないなんて私が許しても金田一少年が許さないよ!?」
「誰だそれは」

律儀に応えていくあたり、完璧に無視しきれてもいないようだ。
死体袋を取り出して、遺体をそこに詰めていく。ふと思い出したようにデータパッドを渡してきた。

「ほら、約束の報酬だ」
「うひょーい1000ドルだ……じゃなくて!ほんとに調べなくていいの!?そいつと知り合いだったんでしょ?」

サラリアンの手が止まる。

「なぜそう思った?」
「う~ん」

僅かに警戒を帯びた彼の問いに、少女はうろうろ歩きながら考えをまとめる。
そもそも一般人に向かって犯罪者を探せなどと、字面からしておかしい。それをさせるということは、彼が血も涙もない合理主義者か……もしくは犯罪者の人となりを知っていたと考えられる。戦えない女子供に危害を加えるような奴じゃない、とか。
さらに言うなら、『連合』とかいう組織に加入している者が単独行動をとっているのもおかしい。よく知らないが、チームで動くのが普通では?
個人的に会って自首でも勧めるつもりだったのだろうか。などなど。
しかしまとめて言葉にするのも難しい。
よって彼女の答えはこうだ。

「勘。」
「ああ、女の勘というやつか」
「そうそれ」
「仕方ないな……。確かに彼とは友人だった、だが私は彼の選択を受け入れる。それだけだ」
「ふーん。そんなもんかな」

話はあっさり終了した。
サラリアンは中身入りの死体袋を背負い、用は済んだとばかりに立ち上がる。

「あれ?妙に納得するのが早かったね。勘とか言い出す女の人に知り合いがいるみたい」
「また妙なところで鋭いな君は。私の妻が言ってたんだ」
「へー」

さくさくさく。
野草を踏み分け、林の出口へと歩いていく。
さくさくさくさく。

…………。

「あんた奥さんいたの!!?」
「なんだいきなり!いちゃ悪いか!?」
「悪かないけどびっくりするわ!ど、どんな人!?やっぱり頭が尖ってたりするの?」

少女は好奇心に支配され、サラリアンの周りをぐるぐると走り回る。
歩きにくいことこの上ない。

「まとわりつくな!彼女も君と同じ人間だ、名前はユーリ!これで満足したか?」
「……まじですか?」


少女は……ユーリは少し困っていた。

あれから1ヶ月過ぎた。
いきなり身についたタイムワープの力はまだ健在だ。家にも帰れた。それは良い。
その後も旅行目的で『ドアを開け』ているのだが、何故か目的地が偏ってしまう。
適当に開けたドアが8割くらいの確率で例のサラリアンがらみの場所に繋がってしまうのだ。
どういうことなの。

「よいしょっ……またあいつかぁ」

気付かれても面倒なので、毎度こそこそと物陰に隠れる。
前はどこかの研究機関、次はサイバーちっくな秘密基地、そして今回はシタデル商業区。

「?」

しかし今回は微妙に様子が異なるようだ。
彼の見た目が若い……ような気がする。そんでもってきょろきょろしている。
おそらく迷ったのだろう。シタデルは広い。
ユーリも3日うろついてやっと全体像を把握したくらいだ。

……まだきょろきょろしている。
これは危ない。
ここは商業区の中でも下層地区だ。コラズデンのチンピラに絡まれでもしたら寝覚めが悪い。
全くもって不本意だがしょうがないので話しかけることにした。

「ねえそこのサラリアンさん。こんなとこでうろついてたら危ないよ」
「全くだ、自分でもそう思う。だが君にも同じことがいえると思うぞ、人間」
「私?」

言われてみれば。
どんな相手だろうと扉を使ってさっさと逃げていたユーリであるが、純度100%の現代っ子であることには変わりない。
心配した相手に心配されるという結果を得て、彼女は少し思索する。

「んー……私がこんなとこをうろついてたら危ないから助けて段々怖くなってきた」
「どうして話しかけた時と立場が逆転してるんだ」
「ちょっとトラウマが蘇ってね」

人生色々。タイムトリッパーにも色々あるのだ。クローガンの集団に追いかけられたのは記憶に新しい。

「分かった、ひとまずここから離れよう。……私は銀行に行きたいんだが」
「おーけい道案内は任せといてー」

さっさと移動し始めるユーリ達だが、彼女の脳裏にある予想が飛来する。
……これはなし崩し的に知り合いになってしまったのでは?すると最後に待っているのは何だ?
彼女は頬が引きつるのを感じた。

「……」
「大丈夫か、顔が変色してるぞ。酸でも触ったか?」
「人をリトマス試験紙みたいに言わないでくれます!?」

落ち着け、まだ相手が自分だと決まったわけじゃない。同じ名前の別人というセンもある。
それにこいつ宇宙人だし。グレイ型の。
少女は必死に自己暗示をかけるが、そんなことやってる時点でもう手遅れじゃないのかと、彼女の勘は言っていた。

2016年 10月1日