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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

N7:無人だった採掘施設

ミノス ウェストランド、フォルティス星系。
そこにはイークイタスという名の惑星があり、イリジウムの採掘施設があった。

「……おっ?」

今は無人の施設内で、ユーリはひょっこり目を覚ました。
明らかな異郷の雰囲気を嗅ぎ取った彼女は、周囲を見渡すなり呻き始める。

「おお?」

埃っぽく、あちこちがひび割れた床!
部屋のど真ん中に設置された、怪しさ満点な謎のオブジェ!

「おおおおっ!」

そして無造作に投げ出された銀白色に輝く金属の塊と小さな箱!
彼女はすかさずガッツポーズをとった。

「夢にまで見た異世界召喚!ファンタジー世界へようこそぉおおおおおっ!!」

――などと絶叫したのが悪かったのか。

「グアアァアア……」

「ん?」

どこからともなく不気味な鳴き声が聞こえてくる。
四角い箱を突っつきまわしてはしゃいでいた彼女だが、嫌な予感を感じ取った。
現在地である部屋を出て、薄暗い坑道へ踏み込んでみる。

ざりっ……ざりっ……。

「…ァァァアァ…」

全裸のゾンビが徘徊している。
ユーリは思わず半眼になった。

「ァアアア……ガ?」
「あっ。」

見つかってしまった。
ゆっくり、ゆっくりとゾンビのような物体がユーリに向かって近づいてくる。

うつろに光る白い眼球。体毛はごっそり抜け落ちており、肌の質感は樹脂のよう。おまけに全身を覆う奇妙なチューブが、常に青白く発光している。
――友好的な交流は望めそうもない。非常にマズい状況だ。
刺激を与えないよう、じわじわ後退しようとしたが……足が動かない。
恐怖にすくんでいるのは勿論だが、変な体勢で寝ていたせいか、体の節々が妙に重いのだ。
どうすべきか必死で頭を回転させるも、こんな時に限って『10本の人参を11本に見せかける方法』なんてどーでもいい雑学が脳裏をよぎる。
そうこうしているうちに、相手のゾンビが先手をとった!

「ギアああァアアアあ!!」

「たーすけてーーー!!!」


連合所属のスペクター・シェパード少佐は、2人の仲間を引き連れて、採掘施設を訪れていた。
この惑星には希少金属の採掘目的で訪れたのだが、採掘場が無人になっていることが判明したのだ。
作業員の行方、並びにその生死を確かめるべく、彼女らは調査を進めている。
――その結果は。

「作業員は全員ハスクになってしまったようね」

そうこぼしたシェパードが、肩に付いたハスクの肉片を適当に払う。

「洗脳装置はこの先だな。機構に興味はあるが、破壊せねば。残念だ」

続いてモーディン・ソーラスが、知的好奇心の権化のような台詞を発する。

「それがいいわ。行きましょう」

と、シェパードが朽ちた柱を乗り越える。
すると3人目の調査メンバーであるグラントが、何かに気づいたように鼻を鳴らした。

「他にも戦ってる奴がいるぞ」
「生存者か?いや採掘記録の数値からするにありえない。侵入者?ふむ、イリジウム目当てか。しかし施設外に船は無かった」

心なし楽しそうな2人はともかく、シェパードは探索のペースを上げる。
あちこちひび割れたコンクリートのような床を蹴り、むき出しの岩盤が覗く壁を横切る。
鉄骨の骨組みが見えたと思えば、陰から飛び出すハスク共をサブマシンガンで蜂の巣にしては凍らせ、燃やし、時に殴る。

そして最深部近くまで来た時。

「ぐアァアアァ!」
「おまわりさーーん!!」

「……なに?」

3人は奇妙な光景と出会った。

「たすけてー!!」

絹を引き裂く高い悲鳴。
その発信源たる黒髪の少女は、拳を大きく振り回してハスクの頭をカチ割った。

「やめてー!!」

よく見ると拳にイリジウムの塊を握り込んでいる。
飛び散る髄液に悲鳴をあげつつ、赤いハスクに手の中の鉱物を投げつける。
見事命中、対象の頭が呆気なく爆ぜた。

「痛いのはヤだーーぁべしっ!!」

赤いハスク――アボミネーションと呼ばれる個体は、死ぬ際に爆発する性質を持つ。
例にもれず爆裂四散する肉片を、彼女は偶然すっ転ぶことで回避した。
ついでに口を大きく開け、瞼を固く閉じていたため、衝撃波による鼓膜の損傷や眼球の飛び出しも防いでいる。

「こわいよーー!!」

すぐさま起き上がって近くのハスクを蹴り倒す。
肺を強打し一瞬動きを止めた相手に、彼女は躊躇なくヤクザキックをきめていった。

「なんだあれは。仲間割れか?」
「ひとまず加勢しましょう」

シェパードは協力する旨を示し、取りあえず、ハスクに氷結弾を撃ち込んだ。


周囲のサイバーゾンビが一掃され、ユーリは感謝の涙をだばだば流しまくっていた。

「ありがとうございますぅぅ、助かりましたぁぁ……!!」
「フン、軟弱だな。まるでパイジャックだ」

グラントに食糧庫荒らしの猿と同一視された彼女だが、しかし立ち直りが早かった。
さしあたって身の危険がないことを察すると、この場にやってきた直後のハイテンションを取り戻す。

「でっ!!ここはどこなんでしょかちなみにわたしはユーリですはじめまして!できれば安全圏とか近くの町とかに案内してもらえると嬉しいなぁと思いますハイ」
「そう。ならユーリ、まずは質問に答えて。あなたはここにどんな目的で来たの?」
「どんなって……」

ユーリは困った。
完全武装の軍人女性に少々気圧されたというのもあるが、『気が付いたらここに召喚されてましたまじファンタジー』などという世迷言を信じてもらえるかどうか分からなかったからだ。
悩んだ挙句、仕方がないので正直に生きることにした。

「寝て起きたらなんかここに居ました」

まじファンタジー。

「それが本当なら異常事態ね」
「待てシェパード、先に訊くことがあるだろう。時間は限られている。優先事項から消化するべきだ」

モーディンがユーリを妙にじろじろ観察しながら発言すると、また坑道の横道からハスクの呻きが漏れ出てきた。

「またお客さんか。こっちはいくらでも大歓迎だ」
「うひー、死にたくなーいー!」

まだまだ暴れ足りないグラントと、頭を抱えて震えるユーリ。正反対の図式である。

「装置を破壊して戻りましょう」

言うが早いか、シェパードは坑道の隅に設置された四角い箱、つまり爆発コンテナを打ち抜いた。
岩をもえぐる大爆発が、洗脳装置に止めを刺す。
これで採掘施設の異変調査と、原因を排除する目的は達成された。

「急いで!」
「ひえーっ!ひえーっ!」

巨大な装置が瓦解するにしたがって、採掘施設も崩落が進む。
天井から降ってくる岩やらなにやらを避けながら、一行は船に戻っていった。


採掘施設にいた少女――ユーリは怪しい。
あからさまに怪しい人物だった。

しかしどんなに怪しかろうと、驚天動地の不審者でも。
助けを求める民間人を不毛の惑星に置き去りにするほど、シェパード少佐は冷酷ではなかった。

「少佐、こんなところまできてスカウトですか?これじゃノルマンディーが動物園になっちまいますよ」
「少し黙っててジョーカー。たぶん彼女は気づいてないんだから」

「わーい宇宙船だ!この一歩は人類にとっては小さな一歩だが、人類……あれ、何だっけ?」

色んな意味で可哀想な仔を見るような眼差しにも気づかず、当のユーリは見学気分で浮かれている。
そのまま会議室まで通されて、

「ユーリ、そこの机を覗き込んでみて。自分の顔が良く映るはずよ」
「わーい映画のセットみたいな……机?どれどれ」

言われるがままに、広い机とご対面。

「…………疲れ目かな?なんかこう、思ってた自分の顔と違う……」
「私達にも同じように見えてるわ」
「えー……」

たっぷり目を凝らした後、故障寸前のメックを彷彿とさせるぎこちない動きで、その顔を――

「……わたし、ゾンビに、なってる、の?」

薄青く変色した肌。
頬骨にわずかな出っ張りがある。まるで金属製のチューブが顔面に埋め込まれているかのようだ。
目の下と顎にも、縦の亀裂が走っている。
――呆然と、そんな顔をあげた。

「少佐、私はぜひ彼女の現状を把握したい。変化は体表だけか?見たところ著しい運動効率の向上があったな。脳組織はそれほど影響を受けていないようだがゼロとも断言できない」

ちゃっかり同席していたモーディンが、清々しいほど遠慮なく自らの希望を語っている。

「なっ……」

そしてユーリは、ひたすら自分の手首を見つめていた。
手の平はまだ問題ない。
しかし服をまくってみると、手首から前腕にかけて……ひょっとすると胴体まで、肌が薄青に変色している。
ダメ押しとばかりに、前腕にも謎の畝が出来ている。おそらく筋線維の一部が金属製チューブに変化しているところで――

「なんじゃこりゃあ……」

使い古された断末魔を吐きつつ、ユーリはその場で卒倒した。

「っと」

その体をシェパードが難なく受け止める。

「ひとまず医務室まで運びましょうか。……全く、どうしていつもややこしいことになるのかしら?」

軽くぼやいた彼女の問いに、まともな答えが見つかることは終ぞ無かった。


2017年 1月25日