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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

かっぱ。

一目惚れというものを信じるだろうか。

一目惚れとは。
初見のインパクトに惚れ込むことである。たぶん。
逆に言うと、一目見た時の衝撃にとり憑かれればなんでも一目惚れということになってしまうが、おおむね間違ってはいないだろう。

それが例え、どんな類いの衝撃であっても。

さて。
私こと新米牧場主クレアは、そのヒトメボレとやらの衝撃を真正面から受けたのだった。
マザーズヒルの柔らかな木漏れ日降り注ぐ、春の月下旬の出来事である。

「…………」
「…………」

無言。
無言。
相手もこっちもひたすら無言。
あっちはどうだか知らないが、こちらが言葉を失うのは分かって欲しい。

なんてったって……湖にきゅうりを落としたら、いきなりかっぱが出てきたのだから。

「…………」

水面から上半身が生え出てる。
つるんとしたフォルムに頭の皿、つぶらな瞳とトボけた眉、のっぺりした表情に張り付けられた半開きの口元は、なにやら笑っているようにも見える。
絵本に出てくるような、いかにもなかっぱがそこに居た。
……永遠に近い数秒が辺りを支配した。目線をこちらから外さぬまま、何も言わずに水底に沈みゆくかっぱ(仮)さん。ちゃっかりきゅうりを持っている。

いや待て。ちょい待て。大いに待て。

「ま、待って!」

頭の皿が沈んで見えなくなる前に、反射的にきゅうりその2を泉に投げる。今日出荷する予定だったがしょうがない。
湖面の輝きがゆらめいて、きゅうりその2がちゃぷんと沈む。

……ざっぱん。
また出た。

「……お前、しつこい。もう来るな」
「いやお願いちょっとでいいから待って!?他になんか言うことないの私はあるよ!?」
「……」
「帰るなー!!」

全く表情を変えないまま、それでいて面倒臭そうに潜ろうとするかっぱの腕をはっしと掴んだ。
鼻腔をくすぐるきゅうりと魚と…よくわからない水っぽい匂い。
掴んだ腕はちょっとだけぬめぬめしている。

「……」
「あの、あのっ!私ちょっと前に向こうの牧場に引っ越してきたクレアっていうんだけど!挨拶が遅れてごめんまたきゅうり持っ、沈むなってばー!!」

かっぱらしき未確認生命体は、掴まれた腕など意に介さず、水泡を残して沈みゆく。しょうがないのでこちらの手は引っ込めた。
とっぷん、なんていうあっさりした効果音とともに、それっきり姿は見えなくなった。

何事もなかったようにきらめく湖面と、手のひらにあった感触のあとだけが残された。
しばらくぼーぜんと立ち尽くしていたが……力が抜けてへなへなとその場に座り込む。服は汚れるけどいつものことなので気にしない。

えーと。
あれだ。
凄まじい出会いだった。ミネラルタウンの住人たちは皆個性豊かだが、これはもう別次元。
まだ心臓の動悸が収まらない。
頭の中が謎のかっぱで埋め尽くされている。理解不能すぎてもっと知りたい。

……あれ?

頭の中にチェックリストが浮かんできた。

一目見ただけで雷に打たれたような衝撃――はい。
胸がドキドキする――はい。
その人のことしか考えられない――はい。
さっき会ったばかりなのにもう会いたい――はい。

こ……これはまさか。
湧き上がる驚愕の事実。神様はなんという試練を私に与えたんだろう。女神さまなら泉にいたけどそうでなくて。
よく分からないが激しい感情に身をゆだね、握りこぶしをしっかと固める。
反動をつけて勢い良く立ち上がると、驚いた野鳥がばさばさ飛び去り梢を揺らす。

「これが……恋っ!?」

それを否定できる者は、とりあえず近場にはいなかった。

2014年 9月26日