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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

目覚ませ!黒歴史

今日も代り映えしない一日が終わった。
いつものように家を出て、いつものように帰路につく。
時刻は逢魔時。
つるべ落としに沈む夕日と、夜の足音が混ざり会い、西空に複雑な模様が浮かぶ頃。
退屈な日常にせめてもの彩りを添えるかのように、一番星がまたたいていた。

「ただいまー」

ガチャリ。家のドアを開けた。
トスっ。頭頂部に何かが突き刺さった。

「フン、やはりこの世界の連中も平和ボケしていたか。腑抜けかどうかは……これから確かめる必要があるな」

そして屋根の上からヒト型サイズの黒い鎧が降ってきた。
ちょっと日常が終わるの早すぎない?

「さあ聞かせて貰おうか。この世界を脱出し、天宮へ帰還する方法を!」
「~~~~!!」

何事か格好つけたポーズをとり、意味不明な質問をしてくる黒鎧。
金魚のように口をぱくぱくさせながら、頭を抱えてうずくまる私。
……あ……あたまが……

「……いっ……」
「む?」
「…………痛ッッたいいい!!おもに頭頂部が痛いいいいッ!!」

私は吠えた。
脳天に食い込んだ針っぽいものをズッと引き抜いてガッと地べたに叩き付ける。
結構深く刺さっていたはずだが、血は一滴も噴き出していない。これは安心するところか、それとも不気味に思うべきなのか?たぶん後者だ。
黒い不審者が驚いたように半歩身を引く。

「チッ……洗脳が効いておらんだと!?」
「効かないよ!!?」

反射的に突っ込みを入れる。
えっなに?今洗脳されてるところだったの?

「……まあ良い。して、どうなのだ。次元を越える方法に心当たりはあるのか、無いのか!?」
「ええー……そんなこと言われてもその、私そういうオカルト系は……」
「さっさと答えろ!」
「ひえっ」

不審者に怒鳴られた。
こうも理不尽が続くと恐怖心よりも『やっぱ世の中ってクソだな』という苛立ちの方が勝ってくる。
しかし……
私はこっそりと相手の姿を盗み見た。
最初は全身鎧を着込んだ変態かと思ったが、それにしてはリアリティがありすぎる。眼球の動きなんか作り物とは思えない。
ということは──

「あ~……その前にですね。つかぬことを伺いますが」
「何だ。手短に申せ」
「……あなた人間ですか?」
「違う。俺は武者頑駄無だ、貴様らと同じ種族ではない」

黒い鎧の不審者は、腕を組んでそんなことを主張した。

西空からは茜色が遠ざかり、闇のベールが徐々に裾野を広げてくる。
一陣の風が吹き抜けて、肌寒い空気を住宅地に運び往く。
夜が訪れようとしていた。


「つまりあなたは、アークとかいう国からこっちに飛ばされて来たんですね。で、帰る方法を探してると」

こうも暗いと話にならない。
玄関前の灯りを付けながら確認すると、「最初からそう言っておる」と偉そうに頷かれた。
……私は状況を正しく認識した。

「絵に描いたような逆トリだぁ……」
「そんなことより、いい加減に答えたらどうだ」
「え~……さっきも言いましたけど、異世界トリップとか召喚とか、そういうオカルトじみた話はちょっと……」

軽く頬など掻きながら言葉を濁す。
大多数の子供がそうであるように、昔の自分は少々夢見がちだった。それは認めよう。
しかし成長した今は違う。これもまた大多数の人間がそうであるように、現在の自分は事なかれ主義の現実主義者だ。
超常現象なんて頭の痛くなりそうなことはまるっと誰かにぶん投げて、さっさとご飯食べて風呂入ってぐーたらして寝たい。

「『ちょっと』──なんだと言うのだ?」

が、しかし。
そうは問屋が卸さないようで。

「途中で言葉を止めるな、はっきりと物を言え!」
「うわっ、ですからその……ちょっと……」

「…………」

「………………ちょっとしか分かんないです……」
「良し」

なにが良いんですかね?

「今から次元転送の儀式を行え」

そしてとんでもない無茶ぶりをかまされた。
一瞬脳が理解を拒否し、直後──ばたばた手を振って否定する。

「いやいや無理です無理ですって!私っ!普通のっ!人間っ!!」
「ならば貴様の他に詳しい者がいるのか?」

言われて思わず周囲を見渡す。なんのことはない住宅地が夜の闇に包まれていた。

ええと、ご近所に元中二病患者さんとか居たっけ?
夜な夜な『異世界 行き方』でネット検索してたような人は……
ノートにオカルトサイトの記述をせっせとまとめてたような人は……
本気で異世界トリップしてやろうと色々実験してたような人は……
脳内検索中・・・検索結果、該当者一名。
つまり私だけだ。

「……たぶん居ないですね……」
「そうか。やれ。心配するな、失敗しても殺しはせん」
「殺害が選択肢に入ってるぅ……!!」

どうやら拒否権は行使できないらしい。
さすがに命は惜しいので、大人しくこの不審者ロボに従うことにした。
……かつて中二病だったツケが今ごろになって回ってくるなどと、誰が予想し得ただろう。
やっぱ世の中ってクソだな。


水気を含んだ夜風に紛れ、てくてくカチャカチャと2人分の足音が響く。
現在地は近所の土手。
川岸付近に一段と高く積みあがった土の堤を、懐中電灯が頼りない光で照らしていた。

「……何故場所を変える必要がある?」

後方を歩く不審者が胡乱げに問う。
私は懐中電灯を構えつつ、適当にナップザックを背負い直した。

「いつまでもあんな所で騒いでたら近所迷惑になるからです」
「騒いでいたのは貴様の方ではないのか」
「そりゃ頭に針なんか刺されたら誰だって……」
「…………」
「なんでもないですぅ!独り言ですぅ!」

その血走った目で“圧”をかけるのをやめてほしい。怖いから。
ああ背中が重い。
一度自宅に入って荷造りをしたため、物理的にも背中は重いが、精神的にも重圧を感じる。
気怠い身体を引きずるようにしてしばらく歩き──

「ここでいいかな」

呟くと同時に足を止めた。
土手の上、少しばかり道の開けた平らな地面。
住宅地の灯りが遠くに瞬き、星空の下に平和な日常を演出している。
さて。
ナップザックを地べたに降ろして、中からレジャーシートを引きずり出した。
さらには昔異世界トリップやら何やらについて書き記したノート……早い話が黒歴史ノートだ。それを取り出し、ページを開く。

「えーと、まずはレジャーシートの上にこの魔法陣を書き写す……」

うわぁややこしい図形。
誰だノートにこんな面倒くさい魔法陣描いたの。私か。

「絵の具セットを取り出しまして~」
「……」
「水筒に入れておいた水を水入れに注いで~」
「……」
「白い絵の具をパレットに絞り出し~」
「……」
「筆に絵の具を付けまして~」
「……貴様は黙って動けんのか?」
「喋ってた方が落ち着くんです」

さっきから誰かさんが血走った目で観察してくれるもんでねぇ!!プレッシャーが凄いんですよぉ!!
──と、心の中だけで叫んでおく。
暗闇の中で爛々と目を光らせる全身黒鎧とか恐怖以外の何物でもないわ。ホラーかよ。

「こう書いて、こうきて、こう……」
「……」
「あっ線が曲がった」
「………」
「一回消してー、また書いてー」
「…………」
「うーん大きさの比率がちょっとおかしい」
「──貸せ」

頭の上から降ってきた、やたらとイライラしていらっしゃる低いお声。
思わず「はい?」と、間抜けな返答をしてしまう。

「いいからその筆を貸さぬか!貴様に任せていたら夜が明ける!」
「らっ、ラジャー!!」

グワっと顔を近づけられて凄まれたので慌てて筆を献上した。
彼は速攻でレジャーシートに跪き、ざかざかと白い線を引いていく。
速い。私の時とは比べ物にならない早さと正確さであっという間に魔法陣が完成した。

「次はどうする!?」
「えーとえーと、この磁石を粉末状にします!」
「貸せ!」
「イエッサー!!」

ザックの中から磁石と金槌を選んで渡す。
またしても凄まじい速度で、ドカカカカカカッ──!と小刻みに金槌を振るい、磁石を砕いていった。
ちょっと面白い絵面ですね?

「出来たぞ、これをどう使う!?」
「魔法陣の上にまんべんなくバラ撒いてください!」
「次は何だ!?」
「あとは水筒のコップに余った水を入れて、持ってきた果物ナイフを用意してさっき拾った小枝と、えーと黒歴史ノートの万能符のページを破り取ってー!」
「焦るな!」
「レンジャー!!」

なんとも慌ただしくナップザックを掻き回し、目当ての品を装備する。
そんな感じで、ようやく異世界転移魔法の準備が整ったのでした。
と、いうわけで。


「じゃあ今から儀式するんで、終わるまでそこに立っててくださいね」
「ム。こうか」
「そうそう」

レジャーシートに描かれた魔法陣の真ん中に、黒い人を配置する。
懐中電灯のスイッチを切り、月と星の灯りだけを光源とした。
さてさて、やるからには全力で挑んでみましょうか。
ほとんど脅されてやってるようなもんだけど、まぁせっかくだし、中二病時代あのころを思い出す感じで──

──意識を切り替える。

まずは呼吸を整える。
今から執り行うのは、ヨーロッパ密議の流れを汲む西洋魔術だ。
独特の呼吸法で体内に空気を循環させていく。
4秒で息を吐き、2秒止めて、4秒で吸い、2秒止めて、再び4秒で吐く。

──4つ、2つ、4つ、2つ、4つ、2つ──

息の流れを追う間に、手順を再確認する。
この世の物質を異なる世界へ送るには、空気を通して、水を通して、火を通して、また大地を通さなくてはならない。
西洋魔術において「風」「火」「水」「地」の四大は、次のような象徴物で表せる。
「風」 槍、杖、棒
「火」 剣
「水」 杯
「地」 ペンタクル
私は現在それらを所持している。
小枝は杖に、果物ナイフは剣に、水の入ったコップは杯に、描いた魔法陣はペンタクルに。
儀式のイメージを蓄積することで、それぞれに象徴としての役割を与えることが可能となる。

呼吸を繰り返していくうちに、腹部に空気とは別の何かが降りてきている感覚を掴む。
希薄な霧状の流動体。「気」、あるいは「エーテル」と呼ばれるエネルギーだ。
精妙で微細な実体を取り込み、体内の隅々にまで行き渡らせる。

──8つ、4つ、8つ、4つ、8つ、4つ──

徐々にリズムを変化させ、出来るだけ長く、丸く、静かな呼吸を心掛ける。
自らを取り巻く大気の流れを、水のせせらぎを、夜空の輝きを、風にそよぐ草の動きを鋭敏に感じ取れるようになれれば、あとは──

ノートから破り取った1枚のページ。
ソロモンの「万能符」が描かれたそれを片手に携えて、剣と、杖と、杯を順ぐりに取り上げた。
四つ組の呪文を高らかに唱える。

 Caput mortuum, imperet tibi Dominus per vivum et devotum serpentem.

 死せる首よ、供えの生きた蛇によって〈主〉は汝に命じたもう。

 Cheerub, imperet tibi Dominus per Adam Jotchavah! Aquuila errans, imperet tobo Dominus per alas Tauri. Serpens imperet tibi Dominus tetragrammation per angelum et reonem!

 天使ケルビムよ、アダム・イォトカヴァによって〈主〉は汝に命じたもう。 さまよう鷲よ、牡牛の翼によって〈主〉は汝に命じたもう。蛇よ、天使と獅子とによって「聖四文字」の〈主〉は汝に命じたもう。

 Michael, Gabriel, Raphael, Anael!

 ミカエルよ、ガブリエルよ、ラファエルよ、そしてアナエルよ!

 Fluat udor per Spiritum Elohim.

 「湿気」よ、エロイムの霊によって流れ出でよ。

 Maneat Terra per Adam Lot-Chavah.

 「大地」よ、アダム・イォトカヴァによって据えられよ。

 Fiat Firmamentum per Iahuvehu-Zeboaoth.

 「大空」よ、イァフヴェフとセバオトによって拡がれ。

 Fiat Judicium per ignem in virtute Michael.

 「裁き」よ、ミカエルのちからによって炎に包まれ全うされよ。

 Angel of the blind eyes, obey, or pass away with this holy water!

 盲いた眼の天使よ、服従せよ、それともこの聖なる水とともに過ぎ去れ。

 Work winged bull, or revert to the earth, unless thou wilt that I should pierce thee with this sword!

 働け、「翼ある牡牛」よ、それとも大地へ還れ、我にこの剣もて貫かるることを望まぬなら。

 Chained eagle, obey my sign, or fly before this breathing!

 鎖につながれた「鷲」よ、この護符に服従せよ。それともこの息吹きを前にして飛び去れ。

 Writhing serpent, crawl at my feet, or be tortured by the sacred fire and give way before the perfumes that I burn in it!

 うねりくねった「蛇」よ、余が足もとに這いつくばれ、それとも聖なる火に責めさいなまれて、余がその中にくべる香の前に退散せよ。

 Water, return to water! Fire, burn! Air, circulate! Earth, revert to earth! By virtue of the pentagram, which is the morning star, and by the name of the tetragram, which is written in the center of the cross of light!

 水よ、水に還れ。火よ、燃えよ。空気よ巡れ。「光の十字架」の中心に記された聖四文字のちからによって、大地よ大地へ引き返せ!

詠唱の後は、カバラ式の十字印を切る。
手を額へ持っていき「汝のものとなり」続けて胸へ「王国は」左の肩へ「正義は」右の肩へ手を当てて「そして慈愛は」と付け加える。
最後に両手を組み、こう唱えた。

「生成の反復の中において、永劫を通じて王国Malchut厳格Geburah、及び寛大Chesedが汝のために存在する」

これで、終わり。儀式における全ての手順をなぞり終えた。
深く長く息をつく。
意識を現世に浮上させ、しびれるような浮遊感から抜け出していく──

「……」
「……」

……ええと。

「……何も起こりませんね?」
「そうだな」

次元転移の儀式は不発に終わった。実に現実的な結果といえるだろう。
ひゅるりと虚しい風が吹き、腕組みした黒い人が不満そうに頷いた。
おおっとこれは命の危機かな?

「ころさないでくださいおねがいします」
「最初に殺さんと言ったろうが。聞いていなかったのか」
「いやぁ聞いてましたけど……そんなこと言いながら『失敗した者に価値は無い』とか」
「言わん!」
「あっハイ」

なんか今やけに食いついたな。
嫌な思い出でもあるんだろうか。

「……っとと……」

そんなことをやってるうちに、軽い眩暈が襲ってきた。
……周囲のものが異様に閃き、自分自身も内から光を発しているかのような錯覚。高い夜空に吸い込まれそうな高揚感。
オカルトサイトでは、こういう状態を指して神秘体験だなんだと書かれていたが……
たぶん過剰に分泌しすぎたアドレナリンとか、そういう脳内麻薬で酔っ払ってるだけだと思う。

「どうした。儀式の反動か」
「そんな感じです。はぁ~頭がクラクラする……」

この状態から手っ取り早く回復するには、何か別のことに集中すればいい。
視覚だけでも遮断するために目を閉じて、ひとつ気になっていたことを聞いてみた。

「あのー、ちょっと質問があるんですけど」
「言ってみろ」
「それじゃ遠慮なく。……どうしてそんなに帰りたがってるんですか?」
「……」

鋭くなりすぎた聴覚が、僅かな身じろぎの音さえ捉える。
……質問のチョイス間違えた?興味本位で聞いちゃいけないやつですねこれは。

「貴様には関係ない。……が……」

返答を拒否されたと思いきや、迷うような気配を醸し出す。
尤も、こちらは目を閉じたままなので細かい様子は分からないが。

「──俺には仕えるべき主君がいる。一刻も早く戻らねばならんのだ」

絞り出すように吐露された言葉。
その願いが、あまりに重く感じられたものだから。

「なるほど。それじゃあ……」

帰らなきゃいけませんね。
そう台詞を重ねながら、瞼を上げる。
ぼやけた視界が焦点を結び、月と星の灯りが照らし出す魔法陣のその上には──

誰もいなかった。

「……あ~……」

その辺に置いておいたままの懐中電灯を手に取って、カチリと灯りを付けてみる。
レジャーシート。魔法陣。絵の具セット。粉末状になった磁石。金槌。果物ナイフ。枝。水筒。黒歴史ノートとその切れ端。ナップザック。
儀式の名残はそのままに、あの黒い不審者だけが、忽然と姿を消していた。
驚きは──あまりない。
少なくとも取り乱すことはなく、私はぼんやりと夜空を見上げた。

「ひと言くらい、お別れの挨拶とかあっても良かったんじゃないですかね?」

無意味な独白をこぼした後、改めて儀式の残骸へと視線を落とす。
……片づけるの面倒くさいな……
だがこればっかりは仕方ない、自分で蒔いた種は自分で刈り取るとしましょうか。

まずは黒歴史ノートを拾い上げる。
続いてレジャーシートに歩み寄り、魔法陣へと足を踏み入れた──

その瞬間。


「なんだと……!?俺があの世界に飛ばされてから少なくとも1刻は経っていたはず!ウウムこれはどういうことだ、2つの世界で時間の流れが違うとでも……!?」
「まあまあ、落ち着けって虚武羅丸。とにかく無事に帰ってこれたんだろ?」
「確かに結果を見るなら……。異世界の妖術、侮れん……!」

「ザコザコ?」
「コブちゃん、一体なにを騒いでるザコ?」
「それがですね~、どうやらお一人で異世界に行っていたようなのですよ!」
「あらま~~」
「どーだか。頭打って夢でも見てたんじゃねーの?」
「フッ、お前じゃあるまいし」
「どーいう意味だてめえ!?」
「暴れちゃイヤ~ン。落ちるドム~~」

がっしょん、がっしょん。
大きく揺れるビグザムの上で、大将と忍者とその他の愉快な仲間たちが、なんやかんやと騒いでいる。
孤立無援の状況から生還出来た影響か、虚武羅丸の語り口には、いつも以上に熱が入っていた。
もっとも、残った者たちからしてみれば、目を離した隙に消えていた虚武羅丸が、ほんの数秒後にまた現れていたというだけのことなのだが。

「妖術ぅ?姫みたいな魔法を使う奴に助けてもらったのか?」
「いや、あれは……姫とはまた違う種類の妖術使いだ」
「どんな人だったザコ?」
「どーも。こんな人です」

そこに現れた来訪者がぺこりと呑気にお辞儀した。

「ザコ?あ~これはこれはご丁寧に……」

………………

「こんにちは、さっきぶりですね。というかあなたの名前、虚武羅丸っていうんですね?すっかり聞くの忘れてました。ちなみに私はユーリです、以後よろしく」

武者頑駄無とも戦闘ロボットとも明らかに違う、人間特有のふにゃふにゃした装甲。
『まぁこんなこともあるよね』とでも言いたげにスレた眼差し。
先ほどまで顔を合わせていた──しかし二度と会うことはないと思っていた相手を前に、虚武羅丸は疑念をそのまま口にした。

「貴様……!なぜこの世界に!?」

当然の質問。
ついでに当然注がれる、来訪者に対する不信感を孕んだ気配。
複数の視線をその身に受けて、彼女はあっさり肩をすくめた。

「分かんないです。なんででしょうね?」

絶句する虚武羅丸をよそに、元気丸が胸を張り、いつにも増して堂々と歩み寄る。

「お前が妖術使いか?オイラの部下が世話になったな!」
「いえいえ、あれくらいお安い御用です。ところでお願いがあるんですがいいでしょうか」
「おう!なんだ?」

虚武羅丸の上司にしては随分と年若いが、今更そんなことで驚く彼女ではない。
快活に──というよりヤケクソに、ばっと両手を挙げてみせた。

「今の私は一文無しの宿無しです!どうにかしてください!」

──かくして。
異世界の妖術使いユーリは、元気モリモリ軍団に衣食住をどうにかしてもらう運びとなった。
しばらくして分かったことだが、この世界では黒歴史ノートに記載されている魔法をほとんど全て使えるらしい。
戦国時代のような雰囲気とは裏腹に、魔法と相性がいい世界なのだろう。
そんなわけで、彼女の異様なオカルト知識は、今日も遺憾なく発揮されている。

「貴様は元の世界に戻ろうとは思わんのか?」
「いやー、特には。せっかく異世界に来れたんだし、もうしばらく観光していこうかと思ってます」
「気楽なものだな」
「うっ……そうやって睨まれるとその、ちょっと怖いと言いますか……」
「この目付きは生まれ付きだ!」
「え、マジですか??」

どっとはらい。

2018年 11月18日