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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

クロスティーニの生徒たち

クロスティーニ学園の学生寮。
フェルパー戦士の朝は、激しめの準備運動から始まる。

「せいッ!!」

襲撃者の鋭い一撃。
ナイフの軌道が正確に喉へと吸い込まれる。
襲われたフェルパーはベッドから転がるように跳ね起きて、相手の伸びきった肘関節に蹴りを入れた。
しかし襲撃者の種族はディアボロス。多少の攻撃はものともせず、逆にフェルパーの足首を片手でつかんだ。
そのまま足首を内側にひねり、靭帯をねじ切る勢いで力を入れる……

「痛たたたた!離せアリア!!」
「ぐっもーにん。今日も実にいい朝だなリューカ氏」

アリアと呼ばれたディアボロスは、極めていた関節をあっさり離した。
朝の光に照らされてなお、退廃した雰囲気を漂わせる昏い目つきが薄紫の前髪から覗く。
顔面の下半分を口布で覆い隠し、似合わない学生服に身を包んでいる。性別不詳、年齢不詳、当たり前のように身元も不詳。
端的に言うと「死ぬほど怪しいディアボロス」であった。

そしてリューカ氏と呼ばれたフェルパーは、すっかり寝乱れた黒髪をぞんざいに手櫛で直しつつ、うめく。

「あのさ。いーかげんこの襲撃やめない?朝イチで格闘するのって、そこはかとなく健康に悪そうな気ぃするじゃん」
「何を言うか、いつか暗殺者に襲われたらどうする。その日のために鍛えてあげようという学友の親切心を無下にするなんて……自分はとても悲しい。およよ。」
「暗殺者と知り合う予定はねーよ」
「じゃあ元暗殺者」
「ねーよ」

などと言いつつ、寝間着代わりのシャツの上から学生服を着こむ。こっちは普通の女物だ。

――コンコン。

タイミングのいいところで、扉が控えめにノックされる。
入っていい旨を伝えると、長身のフェルパーが寮室に姿を現した。
性別は女性。クリーム色の長い髪を高い場所でひとつにくくり、鉢巻き、甲冑、小手に草履と、異国風の装備に身を包んでいる。
彼女はリューカの枕にナイフがぶっ刺さっているのを認めると、黄金色の瞳を鋭く細めた。

「……懲りん奴だな、君は」
「悪いな飛燕。自分は朝イチで学友2人に襲撃をかけないと死んでしまう体質なのだ」
「息を吐くように見え透いた嘘をつくな」
「苦楽を共にした学友の主張が信じられないと?なんてさもしい生き様なんだ、同情してあげよう」
「殴っていいか?」

ヒエンと呼ばれたフェルパーと、アリアが言い争いを繰り広げているさなか。

「ん?おいリューカ、寝癖がすごいことになってるぞ」
「えっマジ。どのへん」

どこからか若い男の指摘が飛ぶ。
不可思議な現象であるにも関わらず、中にいる3人は何の疑問も抱かない。
言われたリューカはおもむろに立てかけてある剣を手に取り、鞘から引っこ抜いた。

「わーほんとだ。アホ毛が生えてら」
「お前な……俺を鏡代わりに使うなよ」

無骨だがしっかりと手入れされた、美しい刀身を持つ両刃剣。
色々と運の悪い事情が重なり、剣に魂を封じられた学友――バハムーンのルオーテ。

この3人と一振りが、リューカたちのパーティだった。


そして彼女らは2つの世界を救ってみせた。

「……あなたたちに敬意を表そう。そして太古に果たした約束通り、あなたたちの願いを叶えよう」

神の言葉に、希望が間違いでなかったと悟る。
口火を切ったのはアリアだった。
彼(彼女?)は薄暗い雰囲気に似合わず、案外お喋りなところがあるのだ。

「さらなる敵を。この澱みをぶつけられる標的が欲しい。――きさまを殺せれば、最高だな」

次に願ったのは飛燕だった。
彼女は基本的にお人よしであるため、真っ先に他人のための願い事を口にする。

「神よ!このクロスティーニ学園にいる全員の願いを叶えてくれ。皆……皆今日この日のために戦ってきたんだ……!どうか頼む!!」

最後に望んだのはリューカであった。
彼女にはさしたる野望もない。だから、この一言だけ。

「もっと冒険したい」

全ての願いは出揃った。
それが全ての始まりであり、ひとつの区切りでもあった。

「やれやれ、ここはどこなんだろうね。……ルオーテ?」

目を開けると、見慣れぬ街道のど真ん中に立っていた。
腰にさした剣を見やる。
学友の魂を宿していたはずのそれは、物言わぬ鉄の塊になっていた。

「そっか。元の体に……」

ひとりになったフェルパー戦士は、雄大に広がる草原を突っ切る街道の中、呑気に伸びなどしてみせた。
目的地未定。行先未定。
道具袋には今までため込んだアイテムや金子が詰まっているが、この土地でも通用するかどうかは怪しい。
ほんの少し思案した後、とりあえず……遠くに見える怪しい城を指さした。

「あれ目指して歩こうか」

ここはひょっとすると異世界かもしれないとか。
あの城も学園だったりしてとか。
飛燕とアリアは大丈夫なのかとか。
そんな益体もないことを考えつつ、リューカは歩いた。
きっとこれからも歩き続ける。

再び冒険を始めるために。
それだけのために。

2017年 9月18日