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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

勝てない博打はほどほどに

絶望。
古来より人々はその2文字を恐れてきた。
それは逃れられぬ老いであり、心身を蝕む病であり、魂を引き裂く離別であり、あらゆる苦しみの形をしていた。
そして今1人の女性が、絶望に足をとられ、もがいていた。

「私は……努力したはずなんだ」
「おう」

心が渇く。何も感じなくなっていく。
あるいはこれが苦しみの形。絶望の終着点なのか。

「畜生、なんでだ、確かに”在る”はずなのに……」
「で?」

手を伸ばす。
膝をつき息も絶え絶えに、しかし希望を瞳に宿して。
あるいは希望こそが諸悪の根源なのかもしれない。それはまるで海水の如く、希望を抱けば抱くほど、ただ喉が渇いていく。
指先が――逆さに伏せられたコップに触れる。

「クイーンはここだぁ!!」
「残念、その隣」
「ファッキンシット!!」

そして彼女は……早い話がギャンブルですっからかんになっていた。

「隠れたクイーンを探せ!」
「うるせえよてめえ!こちとらめいっぱい探しとるわ!」

ひたすら煽ってくるヴォーチャの胴元に、噛みつくように怒鳴り返す。
テーブルに次の代金を叩きつけた。

「ここまで単純な人間も珍しい」
「黙ってろ、今度こそいける気がするんだよ!」
「ギャンブル狂はみんなそう言う」
「しゃらくせえ!!」

シタデルの歓楽街、シルバーサン。
入口にほど近いちょっとした空間で、机とコップとトランプだけの単純な博打に興じる馬鹿がいた。
他にいくらでも現代的な娯楽はあるのに、あからさまに怪しい原始的なギャンブルに手を出している。
見上げた馬鹿さ加減だが、銀河に機械生命体の脅威が迫っている昨今、彼女の単純さはある種の才能と言えなくもない、のかもしれなかった。

「次は……次は……今度こそ右!!」
「残念、その隣」
「だァーーらっしゃーー!!」

今日だけで20回ほど繰り返された光景。
ヴォーチャは淡々とゲームを回し、人間は獰猛にわめいている。
一般的な種族像認識とは異なる光景が広がっているが、ツッコミを入れられる者はここにいない。
女性は口をとがらせつつ、イカサマでもしているのではないかと疑いを深める。
しかし手首やら机の下やら、素人でも分かる怪しい箇所はとっくの昔に改めさせてもらった。
あるいは巧妙な仕掛けがあるのかもしれないが、肝心なからくりが分からないうちは調べようがない。
がっでむ。
ばりばりと頭をかきむしる。

「神様仏様アサメ様精霊様……えーとえーと、もう悪魔でもなんでもいいや!私に幸運を!そしてこの男に天誅を!!」

明後日の方角を向き、胸元で適当に十字を切る。
神様どころかイワシの頭でさえ協力を面倒くさがりそうな祈りであった。
ぞんざいな呪いを受けた当のヴォーチャは、節くれだった3本の指で器用にコップを転がしている。

「次は?」
「……今日はもうやめる」
「まいどあり」
「がるるる」

ボロ負けしたことへのせめてもの腹いせか、いかにも不機嫌そうに威嚇する。
そんなに腹立たしいなら最初から賭けなきゃいいのだがこの女性、シルバーサンへ来た途端、真っすぐヴォーチャの賭けに乗ってしまったのだ。
さながら誘蛾灯に群がるカナブンのごとく。
とんだお得意さんである。

「また来い」
「ぐるるる」

満足げに手を上げるヴォーチャを尻目に、彼女は「やっぱイカサマだろ」だの何だの呻きながらきびすを返す。
次こそ確実に勝ってやる。
そしてこの悪徳ヴォーチャから負け分をでっかく取り戻してやるのだ。首を洗って待っていろ。
――しかしこのまま帰ってしまうのも芸がない。
最後にもうひとつくらい悪態をついてやろう。
ほんの少し思案した末……振り向きざまに、べっ、と赤い舌を出した。

「潰れちまえこんな店ー!!」



翌日。
シタデルが太陽系に大移動する事件が起こり、図らずも彼女の捨て台詞は実現されるのだが。
それはまた別の話。

2017年 9月14日