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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

求めよ さらば与えられん

行政区。
シタデルの中でも比較的安全が保障された地区であり、定期的にC-sec職員の巡回も行われている。
しかし反面、危険と見なされる存在……例えばクローガンなどは、その種族であるというだけで追い出されることもままあるのだ。

「あの時は魚でいっぱいだと聞いたんだが……」

そんなシタデル行政区で。人工池の周辺をぐるぐると巡る、落ち着きのないクローガンがいた。
彼の名はカルゲッシュ。とある人物から”行政区に魚はいない”との残酷な報告を突き付けられ、真実を確かめるべくわざわざ池までやって来たのだ。
ルカーという連れもいたのだが、そこまで付き合いきれないと、呆れてシャトルに戻ってしまった。

「ママー!あれってクローガンでしょ!?」
「しっ!指さすんじゃありません!」

善男善女の市民達は関わらない様に離れているが、それはそれとして。
ふらふらとうろつくカルゲッシュの近く、通行人のひとりが人工池のそばへと歩みを進めた。じっと水面を覗き込む。
その水は一見綺麗に見えるが、その実、観光客が投げ込むゴミの量は結構多い。
その通行人――コートを着こんだ女性の目には、トゥバベリーの空き缶やら、携帯食料の包みが映った。

「……」

彼女はコートのポケットから、丸いパンを1つ取り出す。
水面を見つめたまま、そのパンをちぎって食べ始めた。

「本当にいないのか?多くのクローガンの夢が……!」

「……もしゃもしゃ……」

「こんなに水があるのに。どうして1匹も見つからない?」

「……もしゃもしゃ……」

クローガンの嘆きをBGMに、女性は池全体を眺めていた。
口の中のパンを飲み込むと、真っすぐに橋の近くへ歩いていく。
大きな広葉樹の植えてある橋のたもとにたどり着くと、何かを決めたように軽く頷いた。
何の変哲もない丸パンを、ちぎって池へと投げ始める。

「こーいこいこい」

ぺちぺちと手拍子を打ちながら、謎の呪文も唱えている。
するとなんということでしょう。
とても大きな金魚たちが、口を開けて集まってくるではありませんか。

「わぁ、ほんとに居るもんで」
「なんてことだ!!魚だ!!」

背後からカルゲッシュが背中を押した。
彼としては押しのけるくらいの力加減だったのだろう、しかしコートの女性はもんどりうって転倒する。幸い池ポチャだけは免れたが。

「あうち!?」
「おい人間、どうやってこいつらを呼び出した?そうかエサか、やはり魚を飼っていたんだな!」
「……ンなわきゃねーでしょう…」

擦りむいた掌をさすりつつ、ジト目になって応える女性。
ちらりと水面を振り返ると、池に落としてしまったパンが、集まった金魚たちにむさぼり喰われている。

「あれはたぶん、捨てられた魚です。飼い主に飽きられたんですかね」

彼女の中で、魚が存在したことへの驚きはなかった。
ゴミを平気で池に捨てるような人がいるのだ。きっと魚くらい捨てるだろうと踏んでいた。
魚好きのクローガンは、不思議そうに首をかしげる。

「生きた魚を捨てるだと?どういうことだ。お前たちの考えることは分からんな」
「細かいことは置いときましょう。で、あの金魚どーします?」
「捕まえて食うさ。当然だろう」

テンション上がってきたカルゲッシュが、這いつくばって水面に手を伸ばす。
届かない。
めいっぱい身を乗り出してじたばたする。
届かない。
金魚の群れが橋の下へと逃げていく。
そこで彼女が「あーそうそう」と人差し指を立てた。

「気を付けた方がいいですよー。私も1回落ちたことあるんですけど、ここの池って意外と深くて…」
「ハッハー!!」

時すでに遅し。
カルゲッシュは”どばっしゃあ!”などという擬音と共に、水柱をあげて転落した。
はねまくった水飛沫が女性のコートやら顔やらにかかる。

「……」

額に張り付いた前髪をかき上げる。
髪をどうしようと、現在進行形でばちゃばちゃ水がかかっていくので無意味だが。

「とうとう捕まえたぞ、信じられない!最高だな!」

歓声をあげたカルゲッシュが、そのまま金魚を口に放る。
1匹だけではない。続けて2匹3匹と、掴んでは服の収納へ入れていた。
ある程度乱獲を済ませると、器用に立ち泳ぎしながら陸地に近づく。底を蹴って陸地に飛び上がった。
着地したのち、体をゆすって水気を飛ばす。

「今日はいい日だ、クローガンの夢が実現したぞ!」
「そりゃ良かったですねぇ」

一応彼女も祝福する。
自分の体を見下ろして、水を吸ったコートの端を絞ろうとするが……やめる。皺まみれになるオチを確信したのだろう。
一方、金魚を丸齧りにしたカルゲッシュは、人間にもはっきり分かるほど上機嫌だ。女性に向かってデータパッドを突き出した。

「ありがとう、これは情報料だ」
「あ、どーもご丁寧に……1000クレジット!?気は確かでしょうか」
「金は使いたい時に使うもんだ、どうせここじゃ銃も買えない。それじゃあな、人間!」

べたべたと足跡をつけながら、色んな意味で勇敢なクローガンはさっさと行政区を後にする。
あとにはずぶ濡れの人間女性だけが残った。

――いや、そしてもう1匹。
元気に跳ねるやや大ぶりの金魚がいた。去り際にカルゲッシュが落としていったのか。

コートの女性は、その小魚をつまみ上げる。

「……そのまま食べると生臭いんですよね、金魚。あのクローガンを尊敬しますよ」

妙にしみじみと独りごち、手の中の小魚を池へと投げる。
騒動に巻き込まれた哀れな金魚は、着水するなり橋の下へと逃げていった。

シタデルは今日も平和である。
そういうことになっていた。

「……っくしょん!」

2016年 7月24日