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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

罪の名は、

シタデル行政区。
風光明媚な観光地であり、商業の中心地でもある。
その区画の、比較的人通りの少ない橋の上で、対峙する2人組の影があった。
1人は軍人らしきトゥーリアンの男性、もう1人は野暮ったいコートを身に着けた人間女性。
コートの女性は、眼差しに悲痛な決意を灯した。

「自首しましょう」

彼女はそう言った。
相対するトゥーリアンに、僅かな動揺の気配が走る。
それは身に覚えのない冤罪をかけられたためではなく――図星を刺されたが故の狼狽であった。
何故ばれた?いつから気付いていたのだ?

「……一体、なんのことだ?」

「とぼけないでください。一時とはいえ、同じ任務を乗り越えた仲です。あなたの無様な姿は見たくない」

コートの女性はただの研究職。トゥーリアンは連合に所属する軍人だ。
本来、こういった糾弾の出来る立場ではない。
しかし彼女は見てしまった。
彼が…つまりかつての同輩が悪事に手を染める、そのおぞましき瞬間を。
トゥーリアンは周りの視線を気にしながら、

「なっ、それは…!……確かにやった、だがお前には関係ないことだろう!」

いよいよ動揺を露わにした。
相手は非戦闘員の女性である。いずれ悪事がばれるにしても、まさかその相手が彼女であるとは夢にも思っていなかったのだ。

橋のたもとに木の葉が落ちる。
力尽きた一葉の葉は、軍人たるトゥーリアンの転落を示唆しているかのようだった。

「関係あるなしの話ですか!?隊長のところへ行きましょう、土下座して謝ればきっと銃殺くらいで許してもらえます!」
「銃殺!?馬鹿を言うな、誰がそんな言い方で納得するか!」

聞き分けのない彼の様子に、次第に腹が立ってきたのか。
女の顔がはっきりと怒りの色に染まる。

「自分が犯した罪の重さも分からないんですか!?このウスノロ!トッチャンボーヤ!アオビョータン!ベラボーメ!!」
「な、何語だそれは!?翻訳機に対応してない言葉で喋るな!」
「何語だろうとけなし文句に決まってるじゃねーですかその頭は飾りですか!?よく見ればインテリアに良さげな形してますしねぇ!!」

……女は真面目な会話を維持できない傾向にあった。
小学生レベルのノリで、態度だけはどこまでも真剣にトゥーリアンを責め立てる。

「何だと!?こっちが下手に出ていれば、この…雌犬!!」

彼も自分の罪を認めてはいるが、あんまりな言われ方につい頭を沸騰させている。
コートの女性にずかずかと詰め寄り――

「あ、丁度いいです。そこのC-sec職員さんにブタ箱に放り込んでもらいましょう」

人間女性は、ぴっ、とトゥーリアンの後ろを指差した。

「!?」

反射的に振り返るトゥーリアン。
が、後ろにあるのは植えてある大木くらいのものだ。あと橋と池。
女性はふっと体を沈め、持ちうる力の総てをかけて……

「よいしょぉ!!」

膝かっくんをお見舞いした。

トゥーリアンの脚は衝撃を受けると硬化する。
そのタイミングを狙って足払いをかけるが、体格の差も相まって、せいぜい少しバランスを崩すくらいが関の山だ。
だが、まだだ。女の瞳が獰猛にぎらつく。彼の胴体を掴んだまま、体全体をばねのように使い、橋の下へと身を躍らせた。
トゥーリアンも道連れだ。

落下地点にあったのは……シタデル名物、人工池。
盛大に水柱が生じる。

「ごぼぁ!??」
「あぶっごべ!!友よ、貴様の罪と共に沈めえっごば……!!」

口に水が入ることより、決め口上を優先させる。完全に雰囲気に酔っていた。
それはともかく、トゥーリアンはこれ以上ないくらい溺れているし、女の方もトゥーリアンの頭を水中へ沈めるのに夢中である。
このままでは2人が危ない。

「何をやってるんだお前たちは!?」

と、そこに本物のC-sec職員が現れた。
誰かが通報でもしたのだろう。

「げほっ!!た、助けてくれ!!」
「お前の罪を数えろおおごぼぼぼぼ……!!」

トゥーリアンの軍人が、見るからに弱そうな人間女性に襲われている。
世も末な光景を見て、C-sec職員――彼もトゥーリアンだ――は一瞬目を疑った。

……気を取り直した職員が、ロープを使って2人を引き上げる頃には、周囲に野次馬の囲いが出来ていた。

「で、喧嘩の原因は何だ?」

即座に反応したのは人間女性の方だった。
ハイスクールの生徒のように、行儀よくぴしりと手を挙げる。
髪から服から水滴を滴らせたままなので、どうしても間抜けな印象はぬぐえないが。

「彼が重罪を犯したんです。自首を薦めるうちにこうなりました」
「なんだと?」

瞳を細めて、濡れ鼠の女性に続きを促す。職員は携帯してある拳銃をいつでも取り出せるように意識した。
言われた彼女は、軍人に代わって罪の重さを噛みしめるように、ゆっくりと重い口を開いた。

「こいつが……!軍のレーションを1個つまみ食いしてやがったんです!!」

……職員の顔が軍人に向く。
トゥーリアン同士にしか分からない些細な表情の変化で、「こいつ本気か?」「ええ」と語り合っていた。

「……部隊はどこだ?お前の隊長に言っておく。罰は…トイレ掃除かな」
「すまない。手間をとらせて……」
「これに懲りたらせこい真似はやめるんだな。…あー、お前も来い」

“喧嘩両成敗”。C-secの職員に、いつか聞いた地球の言葉が脳裏をよぎる。
既に興味を失った野次馬連中をかき分けて、騒動の原因たちを連れていく。

「え、今ので終わりですか!?冗談じゃねーですよ、生ぬるいにも程があります!いいですか、私の故郷には『1粒のお米には7人の神様が宿っている』という言葉があって……!」

職員に腕を掴まれて、ほとんど引きずられるように連行されるコートの女性。軍人の方は、大人しくその後ろをついていく。
どちらが罪人だか分からない。

「レーションを馬鹿にする奴はレーションに泣くんです!本当に餓えたことのある人間ならこの気持ちが、もしもし!?」

呆れた野次馬の1人が、飲み干したジュースの缶を池に放る。
放物線を描くそれは、投げられた匙を彷彿とさせた。

シタデルは今日も平和だった。

2016年 7月17日