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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

ガラクタの中で

この銀河系で、一番治安の悪い惑星は?
その問いに、オメガと答える者は多いだろう。
事実そうかはさて置いて、あれほど犯罪と結びついた惑星も珍しい。
ああなるまでにも紆余曲折あったのだが、オメガの歴史を語るより、現在起きている事件を綴ろう。

惑星オメガのスラム街にて。

「ヤロウどこだ!」
「まだ近くにいるはず!」
「探せ!」

ひねりのない台詞を叫びつつ、バタリアンが裏路地を走り回る。それに合わせて汚染された水たまりが、バシャバシャと飛沫をあげていた。
彼らが手にするのは量産型のショットガン。お世辞にもいい装備とは言えないが、知的生命体の息の根を止められるだけの威力はある。

しくじった。

バタリアン達が向かった方角とは逆に進む、青いアーマーのトゥーリアン。
彼は……ギャレスは事態をそう判断していた。
標的こそ仕留められたものの、騒ぎが大きくなった上に、彼自身も深手を負ってしまった。
銃弾がシールドを貫いて、大腿部に当たっている。幸い弾は通り抜けたが、青い血が絶えず床を汚す。
メディジェルは使い切っている。この出血を放置する訳にはいかない。一刻も早く仲間のもとに辿り着かなくては。

そんなギャレスヴァカリアンに、さらなる不幸が追い打ちをかける。
足を降ろした部分の床が、経年劣化で腐っていたらしい。
がっつり足元を踏み抜いて、見るも無残に転倒した。
所持していスナイパーライフルは手放さなかったが、水たまりに顔面から着地してしまった。アーマーに泥水が染み込んでいく。

「クソ…!」

そろそろ何もかもが嫌になってきたギャレスに、ひたひたと小さな音が迫る。
追手にしては歩幅が小さい。
なんとか顔だけを挙げたところで、小柄な人影が目に入った。

「やっほーにーちゃん。死んでるかい?」


年のころなら12~3。
少年のように痩せた体形と、長く伸び切ったぼさぼさの髪、サイズの合っていないよれた服。
オメガによくいる浮浪児と、概ね特徴を同じくする少女がそこにいた。
天井に設置されたオレンジ色の人工灯を反射して、瞳がきらきらと輝いている。

「浮浪児か……。残念だったな、あいにく私は不死身でね」
「足がハマって動けねーみたいだけど」
「動けるさ」

無理に強がることで、ギャレスも多少調子を取り戻したようだ。
なんとかもがいて、重い脚を引っこ抜く。
どんな心境かは不明だが、少女も周りの瓦礫を片付けるなど、ささやかな手伝いを行った。
ギャレスはそのまま、持っていたスナイパーライフルを支えにして、壁際にもたれて座り込む。

「ありがとう。てっきり追い剥ぎかと思ったんだが」
「死んでたらそーするつもりだったけどね。でもほら、にーちゃんまだ生きてるじゃん?1時間後はどうだか知らねーけど」

抜け目無く笑みを浮かべつつ、少女はギャレスの傷口を指差す。大腿部の銃創は、未だに青い血を体外へ運び続けている。
無邪気さと狡猾さを奇妙に同居させた振る舞いを受けて、ギャレスはおどけたように肩をすくめた。

「出血が酷いのは確かだな。どこかのお嬢さんが助けてくれれば生き延びる確率も上がるんだが」
「ふうん。お金持ってる?」
「あまりぼったくらないでくれよ」

渋るようなことを言いつつも、気軽に渡した金額は、少女を満足させるには十分すぎるものだった。
それこそ、持参の物資を渡してもいいと思えるほどに。

「うっわ、ケイキいいでやんの。見つかったのがあたしで良かったよ、運のいいやつ……」

台詞の後半は独り言のようになりながら、彼女は着ている上着をめくる。
服の内側には、数え切れないほどのポケットがあった。そこから中身を取り出しては、使えそうなものを片っ端から吟味していく。
小型の蒸留水製造装置、使いかけのメディジェル、右螺旋種族用の携帯食料、擦り切れたタオル、ピストル等々…。

「用意がいいんだな。いつもこんな商売を?」
「『シュミとジツエキをかねて』、ってね。あたしガラクタ集めるの好きだから」

少女は得意げに胸をそらす。
ギャレスは渡されたメディジェルを傷口に塗り付け、顔についたままだった泥水をタオルでぬぐう。

「ガラクタ集めが趣味か。私の趣味は銃の調整だろうか……?」
「自分のことだろー?なんではっきりしてないのさ。エイリアンって変なの」

そうして当面の命の危険を遠ざけたギャレスは、手持ちの銃の調整に取り掛かった。先ほどの転倒で銃身を壁に打ち付けてしまったためだ。
少女の用は済んだはずだが、興味があるのか、はたまた単に暇なのか。熱心に彼の手元を見つめている。

しばらく、カチャカチャと銃をいじる音と、天井から落ちる水滴の響きが空間を満たす。
先に口を開いたのは少女だった。瓦礫から飛び出たネズミを捕まえながら、ふと思いついたように首をかしげる。

「ねーねー。名前なんてーの?」
「アークエンジェルだ。オメガの悪人退治をしている」
「……にーちゃん、頭大丈夫?ハッパとか吸ってない?」

少女は本気で心配そうに、ギャレスの顔を覗き込んだ。
捕まえたネズミを慌ててポケットにしまい込み、彼の目の前で手をかざして「これ何本に見える?」などと問い始めた。
さすがにギャレスも弁解のために本名を名乗る。

「あーうん、ギャレスね。びっくりした、ヤバいやつかと思ったよ……」
「言っておくが、自分で名乗り始めた訳じゃない。悪人どもを始末しているうちに周りが勝手に呼び始めたんだ。君は?」
「あたし?ただの名無しだよ。いっつも『おい』とか『てめえ』って呼ばれてる」

少女はふんと鼻を鳴らす。不機嫌な野良猫のようだった。
ギャレスはその反応を見て、彼女の人となりを想像する。身なりからして孤児なのは間違ってないだろう。危険な裏路地で単独行動をとっていることから、仲間や友人も少ないのでは?だからまともな呼び名がないのか。
もちろんただの想像であり、出会ったばかりの異星人に名を明かすつもりが無いのかもしれない。
常識的に考えれば、そちらの可能性がずっと高い。


「そうか。だったら名前が必要だな。次会う時までに君の名前を考えておこう」

だが彼はこう言った。
しっかりしたようで、意外に素直なところのある人間の子供に気を許し始めたのかもしれない。
言われた当人は、あからさまにうろたえる。

「え、え?なにそれ、なんでそーなるのさ。だいたい次なんて……あのなぁ!」

口を尖らせて文句を言おうとした彼女だが…不思議と嫌な気分が湧かないことに気が付いた。
擦り切れた服の裾を握って、適当に明後日の方向を向く。

「…まあ、にーちゃんが…ギャレスがどーしても、って言うならいいけど」
「ハハ、分かりやすいな」
「うっさいバカ。あっち行けマヌケ。」

座り込んでいるギャレスの横から、げしげしとアーマーを蹴りつける。さすがに裏路地育ちだけあって足癖が悪い。
アーマーに5~6個の靴型がついたところで、ようやく彼が立ち上がる。

「じゃあな。君のおかげで助かった」

スナイパーライフルを背負い直し、かがんで少女に手を差し出す。
握手を求めているようだ。
しぶしぶ差し出された子供らしい小さな手を、ギャレスは出来るだけ優しく握りしめた。

すると、少女がぱちくりと面食らった表情を浮かべる。
握った手のひらを伝って、何か温かいものが流れ込んできたのだ。

「?」

彼女は疑問符を頭に浮かべて、謎の答えを求めるように、じっとギャレスの顔を見上げた。
するとなぜだか、世界がきらきらと輝き始めた。
安っぽいオレンジの人工灯が、やけに柔らかく感じられる。
天井からの水漏れは、光を映して暖かくきらめく。
その辺に舞う細かいチリすら、魔法のように綺麗に見えた。
この手を握る、固くてザラザラした、いかにも人間外な感触は、どんなガラクタより大事なものだと、心の奥がそう言っているような……

「どうかしたか?」
「んー?なんつーか……べつに。指が3本しかないなんて変だなーって思っただけ!」

彼女にはなんだか分からなかったが、思考を無理やり中断する。
余計なことをうだうだ考えるような子供はあまり長生きできないのだ。
乱暴に手を振り切い、青いトゥーリアンに背を向ける。

「じゃね、つぎ会う時までくたばんなよ!」
「了解、お互い気を付けよう。何かあったらこのアークエンジェルに頼ってくれ」
「まだ続けんのそのネタ!?」

彼女が驚いて振り返った時には、背の高いトゥーリアンはもう路地の角へと消えていた。

「……へんなの」

取り残された人間の少女は、不機嫌にほほを膨らませる。
瓦礫をかき分け、他にネズミでもいないか探しながら、ふと自分の口元へと手をやった。

「…………」

にやけそうになっている。
それがなんだがシャクにさわり、ともすれば緩みそうになる口角を、べちべちと乱暴に叩くのだった。

――彼女の気が済むまで、しつこいくらいべちべちと。

2016年 7月18日