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ブロック崩し ブロック崩しのページ 畑山畑

名もなき兵士の物語

※『罪の名は、』の前日譚

2187年。イスマー フロンティア、ファイア星系、惑星ゾーリャのジャングル地帯。
私はアサルトライフルM-96 マトックを構え、茂みに紛れて腰まである深さの河を進んでいた。
一歩一歩ゆっくりと足場を確かめ、水底は摺るように、波音は立てずに歩いていく。

頭上を吸血性の羽虫が飛び交う。
この星には左螺旋の動植物が生息している。その法則に乗っ取り、後方を歩く『彼女』が今も狙われていることだろう。
にも関わらず、彼女が羽虫を叩く音は未だ一度も聞こえない。
それでいい。
少しでも余計な音を立てると、奴らに捕捉される可能性がある。

数分後、距離にして25m。
用心しつつ行軍する『奴ら』がいた。みな湿った草を踏み分けて黙々と進んでいる。木漏れ日がわずかに差し込む中、彼らの眼だけが爛々とした輝きを見せていた。
人類のみで構成された5~6人の部隊。

私は静かにハンドグレネードを取り出した。
敵との距離が縮まる。20m、15m……。先頭を歩くポイントマンはまだこちらに気づいていない。
あと10メートル。
グレネードの安全ピンを抜き、レバーを押さえながら慎重に外す。発火させ数秒待ったのち、敵部隊の真ん中を狙って投げた。

「敵だ!」

向こうの人間が気づいて叫ぶ。だがもう遅い。投げたグレネードが一瞬光り、爆音と共に黒煙が舞う。
飛び散った破片を受けた奴らが怒号をあげつつ草叢を逃げ惑う。
私はその足元を狙って、容赦なく銃弾を撃ち込んだ。

「よし。周囲の敵は始末した、もういいぞ」

十分に安全を確保したのち、後方の人間に声をかけた。
いつも変わらぬコート姿に、掴みどころのない涼しい表情。……一応、友人と呼べなくもない間柄の人間女性だ。
当の彼女は、胸まで河に浸かった状態で、べちべちと羽虫を叩き始めた。

「いっつつ。痒くならないのはいいんですけど、刺すとき痛てえんですよねこいつら」
「緊張感がないな…。パニックを起こされるよりマシだが」
「なに言ってんですか」

彼女の瞳がこちらをとらえる。その間にも、無駄に正確な手さばきで羽虫をことごとく撃墜しながら、

「熱帯雨林に来たんですよ。サーベラスと鉢合わせるくらい普通でしょう」
「……そうか?」

――ことの起こりは、3日前にさかのぼる。


「もしもし。仕事を持ってきました」

シタデル行政区。
カフェテリア形式の店で簡単な食事にありついている途中、コート姿の女性にそう声をかけられた。
人間種族にありがちな無駄な会話というものを省き、要点から入るのは彼女の数少ない長所だとは思う。最も、それ以外の欠点が多いため帳消しどころかマイナスに突入しているのだが。

「仕事の依頼か?それなら隊長に直接頼んだ方が早いだろう。私の一存では決められないぞ」
「いやー、私もそうしようと思ったんですがね。偶然あなたが目に入ったもんで」

と、断りもなく向かいの席に座ってきた。
どうやら本格的に話を進めたいらしい。安い肉料理の残りを口に掻き込む。

「……隊長が受けるかどうかはともかく、内容くらいは聞いておこうか」
「プロセアンの遺跡を見つけたいんです。惑星の目途はついてるので、あとは現地調査ですね」
「思ったよりまともだな」
「そうなんですよ。バルラヴォンって知ってます?金融業の。あいつから情報を仕入れまして――」

テーブルに頬杖をつきながら、女性が説明を続けていく。何がおかしいのか知らないが、瞳を楽し気に細めながら。

彼女の話を聞いているうち、私は指で頬のペイントをなぞっていた。
……これは癖だ。考え事をしている時、あるいは不穏なものを感じた時の……。
思えばこの時点で、私は嫌な予感を抱いていたのかもしれない。

「こんちは隊長、ご無沙汰してます」
「久しぶりだな。君の依頼ということは、また宙族あたりに襲われるのんじゃないだろうな?」
「ヤですねー、まるで私が災難の申し子みたいじゃないですか」
「そうでないことを祈っている」

出発直前、ドッキングベイでそんな会話がされていた。縁起でもない。
5人のトゥーリアンで構成された部隊に、1人だけ人間が混ざるのもおかしな図だ。しかし本人が志願したのだから止めるわけにもいかなかった。死んだら死んだで自己責任である。

ところで、我々の部隊はコルセアと称されるものの1つだ。連合軍の中でも特殊な立ち位置に存在している。
軍が無所属船舶の艦長を雇い、公的権限の外で任務を遂行させる。表向きコルセアは連合軍に所属していないため、いざという時は軍にその存在を否定されるのだ。
その性質上、正規の軍よりいくらか自由度は高いと言っていい。

「今回は成功報酬が高いな」
「最近、プロセアンがらみの情報が高く売れるんです。金を出すのはあのヴォルスでも、他に欲しがる輩がいるんでしょうね」
「そうか?まあその辺の事情はいいさ。我々の任務は遺跡発見までの護衛だな。期限は7日。結果にかかわらず別途既定の報酬は貰う」
「ですね。よろしくお願いしますよ、隊長」

そうしてフリゲート艦に乗り込んだのが、2日前のことだった。
惑星ゾーリャはブルーサンズの本拠地である。我々が目指すのは辺境のジャングル地帯だが、彼らと鉢合わせになる事態もある程度は予想していた。

しかし遺跡の捜索中、実際に出会ったのはサーベラスの偵察船だった。


「はっはっ。見事に分断されちまいましたねぇ」
「笑ってる暇があるなら進んでくれ。本当にこっちで合ってるんだろうな?」

濁った水をかき分けて、河の中から陸にあがった。
無線連絡によると、隊長たちは既にフリゲート艦に戻ったそうだ。
我々の状況はかなり悪い。足手まといを連れた単独行動など自殺行為だ。なんとしても本隊に合流しなくては。
その足手まとい…人間女性は、あくまで気楽そうにリュックからコンパスを取り出し眺めている。

「船がある方角はこっちですよ。ついでにプロセアン帝国後期の移住パターンから推察すると、この先に遺跡がある可能性も高いんです」
「分かった。とにかくこの先だな」

……こいつのことは掴めない。
サーベラスに襲われた時、まさか彼女が裏切ったのかとも考えたが…そんなことはあり得ないだろう。
コレは人類の、いや知的生命体の例外だ。人類至上主義のテロ組織に加担するなど、そんな『ありきたりな』ことはしないはず。

『―――…!』

「あ、ねえねえ今の鳴き声聞きました?トリかな?」
「はしゃぐな…」

分からないものは放っておこう。
私はM-96 マトックをしっかりと構え直し、巨大なシダ植物を踏み分ける。
ジャングルの開けた場所で、巨大な3角錐の遺跡を見つけたのは、それから少し経った頃だった。

「単純なピラミッド型建造物……当たりです」
「誰もいないな。ここから船までの距離は分かるか?」

植物と菌糸のカーテンに隠れ、遺跡周囲の様子を探る。足跡はないし、倒れた草木も見当たらない。
遺跡発見の依頼は達成したわけだが、こういった見通しのいい場所は発見される危険が高い。

「この地図を見てください、あとこんくらいです。船まではちょっと遠いですね」
「帰還中、またサーベラスと遭遇するかもしれないな」

グレネードの数も残り少ない。
私1人に対処できるのは5~6名の偵察兵が限界だ。待ち伏せや襲撃を目的としたチームに出くわした場合、共倒れに持っていけるかすら怪しい。
フェイスペイントを指でなぞる。どうにも不安がぬぐえなかった。

「今まで倒したのはレコンチームだ。もう我々の存在にも気づいたろう。まずいな…」
「うーん。あいつらみんな事故死ってことで誤魔化されてくれませんかねぇ?幸いこの星には謎の怪鳥がいるそうですし」
「聖霊よ…この馬鹿はどうなってもいいので私と仲間達だけはお救いください…」

久々に真剣に祈りを捧げた。後ろで「あっずるいですよそーゆーの」と馬鹿がのたまっているが、無視だ。

「罠を仕掛けるしかないな…だが何処に…」
「この遺跡でいいんじゃねーですか?」
「サーベラスがわざわざ古代種族の墓をあさるとでも?」

否定のつもりで問いかけたが、彼女はきっぱり頷いた。

「こんな辺境に奴らが来てること自体おかしいんですよ。最近、プロセアンの情報が高く売れるって言ったでしょう?あいつらもこの遺跡を狙ってるのかもしれません」

……それはそれでおかしな話だが、あり得ないと言い切れるだけの要素もない。
第一、こうして話し込んでいる時間も無駄にはできない。行動するなら早い方がいいだろう。

「分かった。その憶測に乗ろう。お前の悪運に賭けてみる」

こうして意見はまとまった。私が周囲の見張りを務め、彼女が遺跡の入り口をこじ開ける。
サーベラスに遺跡を調べるつもりがあるなら、そこから入ろうとするはずだ。
彼女は背負ったリュックを降ろし、中から道具を――

「ちょっと待て。なぜオムニジェルが食料バッグの中に…いや、いい。聞かなかったことにしてくれ」
「そうですね、あれは食うに困って戦車を解体した時のこと……」
「だから言わなくていい」
「中からオムニジェルが出てきまして。私も半分ヤケになってたもんで、薬用アルコールと混ぜて飲んでみたんです」
「…なあ、そういう話は後にしないか?気が抜けるんだ…頼むから…」

これ以上自分の志気を下げたくない。
放っておくと妙な逸話をいくつも話し出すのだ。この女は。
なんだかんだ、オムニジェルで開けられた扉の近くに、いくつかのブービートラップを仕掛けていく。
足元から10~20cmの高さにワイヤーを張り、グレネードに括り付ける。少しでも触れれば爆発する仕掛けだ。

「これだけじゃ弱いな。おい、ピストルか何か持ってないか」
「護身用のやつなら1丁だけ持ってますよ。使います?」
「ある意味ではな。……壊していいか?」
「いーですよ。あとで弁償してくださいね」

本人の許しを得たことで、なかなか高級そうなピストルを受け取る。少しいじれば準備は整った。
あとは船に向かって救難信号を飛ばす。運が良ければ、隊長たちが迎えに来るかもしれない。

「あとは……!来たぞ、隠れろ!」
「にょわー」

コートの襟を引っ掴み、人間を茂みに放り投げる。
自分もシダ植物の陰に身を隠すと、ほとんど同じタイミングでサーベラスの部隊が現れた。

「ここか……間違いない。ようやくこの仕事も終わりときたか」
「油断するな、いくつか偵察部隊がやられてるんだからな」

敵の人数が多い。8名から構成されるチームだ。
やはり真っ向から戦っても勝ち目はない、私は人間に船へ進み続けるようハンドサインを出した。
彼女はひっくり返った状態から、なんとか四つん這いにまで回復していた。そこからカサカサとこちらに這いずってくる。……正直不気味だ。

「ん?これは……」

敵の一人が、遺跡付近に落ちているピストルの存在に気付いたようだ。
どこかのマヌケが落としたのか…大方そんなことを考えているのだろう。
そして奴はそれを、拾った。

ワイヤーが引かれ、グレネードのレバーが弾ける。
一瞬の閃光、そして黒煙。グレネード3つ分の連鎖爆発。破片の雨が降り注ぎ、阿鼻叫喚の騒ぎが起こる。
ピストルを拾えば爆発する。つまりはそういうトラップだ。

「クソ!誰だ!!」

8人全員がこれで仕留められるはずもない。
比較的冷静な奴もいるはず。爆発に気を取られている隙に、我々はこの場から離脱する……!

「見つけたぞ!!」

タンッ、聞きなれた軽い発砲音。
前方の巨大なシダ植物に穴が開く。視認されたか!?

「しまっ……!」

咄嗟にその場にしゃがみ込む。
アサルトライフルを構え直し、後方に向かって銃弾をばらまく。近くにあったカバーにできそうな灌木に潜み、いくらかの弾丸をやりすごす。
向こうの動けるサーベラス兵士は何人だ、5人?6人?
クソ、ここにショットガンさえあれば面での攻撃を補えたものを……!

「敵は1人だぞ!囲め!」

5人の兵士が散開して銃弾を浴びせてくる。灌木を貫通してこちらのシールドがみるみる削れる。
私は……彼女にハンドサインを送った。
きっと近くで見ているはずだ、まさかあいつが死ぬはずもない。
「逃げろ」と。

意外と近くで、植物のこすれる音が聞こえる。
そこに居たのか。動揺のひとつもするだろうが、割り切って船まで逃げてほしい。誰かが遺跡の座標さえ届ければ、この任務は達成される。
私はサーマルクリップをひとつ抜き取り、灌木から身を乗り出した。もう長くはもちそうにない。なら、せめて!

「サーベラス!私が相手だ!!」

シールドの割れる音が聞こえた。
自分のものか、敵のものか。銃弾が一気に降り注ぐ。視界が青く染まっていく。敵の怒号、自分の叫声、肉をえぐる灼熱感。オーバーヒートを起こしかけた銃の悲鳴がどこか遠くに感じられる。『きょんえーっ!!』謎の動物が雄たけびをあげた。

……きょんえー?


「な、なんだこいつはッ!?」
「寄るな!やめろ!う、ぎゃああああああ!!!」
「嘘だろこいつ、人を…ッ!!」

サーベラスの兵士たちが、鳥に目玉をえぐられていた。
いや……鳥というのも少しおかしい。翼を広げた全長は少なく見積もって3m、全体の色は汚い茶色。腹部に羽毛は生えておらず、代わりに金属のような鱗でびっしりと覆われている。
黄色かったはずの嘴は、人間の血で赤く濡れていた。

「撃て!こいつが先だッ!」

兵士の放った銃弾は、ことごとく腹の鱗で弾かれる。

『ぎょえあーーーっ!!』

1人また1人と、その嘴で顔の肉をえぐっていく。ここが地獄か。
呆然と立ち尽くしているうちに、地に足をついているのは私一人となっていた。

「……っ……!」

思わず漏らした呼吸音が、怪鳥の耳朶を打ったらしい。黄色く濁った丸い瞳が、こちらの姿をぎょろりと捉える。

――この星には謎の怪鳥がいるそうですし――
彼女の台詞が脳裏によぎる。
……最期に思い出す言葉がそれか。まさか本当だったとはな。
せめて足掻ききって死のう。あいつも今頃は逃げおおせたはず。どこか呆れたような気分のまま、私は迫り来る嘴を見つめ……

「よいっしょー!!」

小さい何かが、怪鳥の口に投げ込まれた。

『きょっ……!!』

茶色い羽根を羽ばたかせ、怪鳥が地べたに不時着する。よほど驚愕したようだ。
というか、この間の抜けた掛け声は……!?

振り返ると、5mほど先に彼女がいた。
何かを持ったまま半身に構え、さらに片脚を大きくあげる……なんだあのポーズは?

「ピッチャー狙ってぇ~~……投げたっ!」

さらに謎の台詞とともに、小さな物体を怪鳥めがけてぶん投げた。明らかなオーバースロー。≪何か≫は怪鳥の頭上を通り過ぎ、はるか彼方へとすっ飛んでいく。

「そーらとってこーい!」
『ぎゃわあーーっ!!』

彼女の言葉に操られ、巨大な鳥はジャングルの奥へと消えていった。
災厄が過ぎ去ったこの場には、遺跡と死体と湿った草木、ついでに血の匂いだけが残った。
なんだこれは。

「あはは。いやー危なかったですねぇ」
「……あのな……」

アサルトライフルがやけに重い。
私はどうするべきだ?逃げなかったことへの叱責?投げられた物体の正体を聞くか?それとも……

「あ、今のはドライフルーツですよ。なんとなく、あいつは腹が減ってるんじゃないかと思いまして」
「……そうか……」
「どーしました?やけに元気がないですね」

トゥーリアンより大きな瞳が、私の顔を映している。頬が赤く変色しているのは、人間の興奮している証らしい。
元気も何も、私は撃たれて穴だらけなわけで……

「――ぐふっ」
「あ、血。なんじゃこりゃー!…ってそんなリアクションとってる場合じゃねーですよ!メディジェル!メディジェル!」

視界が反転し、植物に覆われた空が見える。地面に打ち付けた背中が痛い。
どうやら倒れてしまったようだ。痛みよりも激しい睡魔が全身を包む。傍からはリュックをあさる音がする。
いくらも経たないうちに、アーマーの上から冷たい液体をぶちまけられた。正体はメディジェルだろう。

「よし。」

よしじゃない。
文句のひとつも言ってやろうと、なんとか上体を起こそうとするが……身体が動かない。本格的に疲れてしまった。

「おー、船が来ましたよ。隊長たちのフリゲート艦です」

どこまでも自由な人間の女は、濡れたコートをはためかせ、船に向かって手を振った。
……結果的に、こちらから死者は出ていない。サーベラスの目的は不明だが、遺跡の座標は確認した。これでシタデルに向かいさえすれば、我々の目的は達成できる。

「まあ……良かった……のか……?」
「ほんと良かったですよ。死んだら悲しくなりますからね。あ、ドライフルーツ食います?こっちはちゃんと右螺旋ですよ」

首を動かすのも億劫なため、眼だけで彼女の様子をうかがう。
――人間の表情は分かりやすくていい。目を細め、口をはっきりと横に広げて……楽しそうに笑顔を見せていた。

「食いますー?」
「いらん……」
「ええー」

顔が痛いと思ったら、私もつられて笑っていた。
まったく馬鹿馬鹿しい。お笑い草だ。あんな事態に巻き込まれて、よくぞ生き残れたものだと思う。
だが。

「隊長ー!ここに死にぞこないがいますよー、タンカお願いしまーす!」

……一緒になって笑う私も、きっと同じくらい馬鹿なのだろう。

2016年 8月5日